私の反抗期は高一の春の中頃、突然やってきた。てっきり反抗期は中学の時にくるんだと考えてて、私には反抗期は一生やってこないと思ってたのに。

無性に家にいるとイライラした。家族の笑い声も、話し声も、全て。お母さんと反発しあうようにもなった。今日のご飯は冷えてて美味しくないとか、テレビのチャンネルの争奪戦とか。キッカケは些細なもの。前なら笑って済ませてたことでも私は声を荒立て責め立てる。それに対抗するように向こうも怒鳴る。最悪の無限ループ。


今日だって、些細なことでお母さんとケンカした。でもいつもと違うのは、私が拗ねて部屋に閉じこもるんじゃなくて、家を飛び出したこと。

ギイッとブランコをこぐ。今の私、リストラされたおじさんみたい?やっぱ失恋したOLみたいかな?もう日は沈み、少しだけ肌寒い夜。人気のない公園。B級のホラー映画のスポットみたいだ。携帯を家に忘れたのは失敗した。今の時刻は分からないし、暇つぶし出来るゲームも出来ない。ぼうっと公園を眺める。砂場に滑り台、鉄棒だってある。ごくありきたりな公園。それが怖かった。なんだか本当に幽霊が出てきそう。コンビニに行こうかな。財布持ってないけど、まあ良いか。


「 お前、何してんだよ。」
「ひっ、!」


コンビニから一番近い道を歩いてると、いきなり肩を掴まれた。夜道を歩くのにやっぱり恐怖心というものがあるので。ビビって色々危なかった。

肩を掴んだ奴は、阿部だった。ダル着で手に持っているのはコンビニ袋。私が行こうとしてたコンビニだ。コンビニ袋からは、500mlの牛乳がちらりと見えた。
阿部とは中学の頃からの付き合いである。と言っても、話したことは0に等しい。阿部は私の存在を知ってたことに驚いた。同じ高校通ってるけど、違うクラスだし。


「コンビニ帰り?」
「まあ、そんなとこ。お前は?」
「 あー、今からコンビニ行く感じ。」
「財布持ってねーじゃん。」
「あは、は。雑誌立ち読みしようかと。」
「何もこんな時間じゃなくていいだろ。危ねぇぞ。…もしかして家出か?」


阿部はタレ目のくせして鋭い瞳で私を見てきた。なにこの目。阿部の前では多分みんな嘘つけないだろうなぁ。阿部の質問に私はゆっくり頷いた。阿部はどう思うんだろ、家出って。阿部って家出したことなさそー。


「はあ、…お前なぁ…。女がこんな時間にふらつくんじゃねぇよ。家出は明るい時にしろよ。」
「 うっ、」
「…送る。家どこだよ。」
「いやいや、いいよっ!そんなの!阿部こそ早く帰りなよ。」
「お前送らねぇと後五味悪いだろ。大人しく送られろ。」
「分かったよ…。お願いします。」


私が阿部に折れると阿部は優しく笑った。うっわ、阿部も笑うんだ。なんていうか阿部って取っつきにくい感じがしてどうも苦手だったけど、今の阿部は全然嫌な感じがしない。たまに野球部の練習見るときいつも阿部の怒鳴り声しか聞こえなかったけど、今の阿部はとっても優しい声、呆れた感じも混ざってるけど。阿部は私の歩調に合わせて歩いてくれた。会話は少しだけ。沈黙すら心地よかった。さっきまでイライラしてたけど、なんだかスッキリした気分。


「さっさと親に謝れよ。お前の帰り心配して待ってるだろうし。」
「…うん。」
「おう。じゃあ俺も帰るわ。」
「ありがとう!、…ごめんね。」
「別にどうってことねぇし。」


ぶっきらぼうに阿部は言った。本当は練習で疲れてるはずなのに私の家まで送ってくれて…。優しいなあ。阿部の新たな一面も見れて今日は家出して良かったかも、なんて。


「好きな奴には良い格好したいからな。」
「、え?」


阿部は私にヒラヒラと手を振って、ガサガサと牛乳が入ったコンビニ袋を揺らして走り去った。私は阿部の背中が見えなくなるまで、家の玄関の前で呆然と立ち尽くしていた。嘘でしょ、だって私と阿部って今日まで関わりなかったじゃん。私は家に帰ってお母さんに長い間説教されても、そのことについてずっと考えていた。まじですか、阿部。私のドクドクと脈打つ心臓は、幸せそうだった。


20111101
ミルク味の幸せ
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