目が覚め隣を見ると誰もいなくて、私の寝相の悪さでクシャクシャになったであろうシーツが私を包んでいた。寝すぎたせいかズキリと頭が重かった。そうだ、今日はサソリの誕生日だ。あーあ、今日こそはサソリより早く起きて朝食作りたかったのに。いつも昼過ぎに起きる私の生活習慣は簡単に直らないらしく、六時半にセットされた携帯のアラームは無意識のうちに解除してしまったらしい。サソリはいつも十時には会社に出かける。今の時刻は昼の二時四十五分、アウト。


◇◆◇


小さい頃から私とサソリは一緒に時を過ごしていた。その延長線上で私とサソリは幼馴染からカップルになり同棲までするようになった。同棲なんてするつもりはなかったけれど、サソリの家が住み心地良くて今現在に至る。同棲を始めた当初はサソリらしいシンプル重視な部屋だったけど、今では私の趣味丸出しの家具や食器が存在感を放っている。違和感がない二本並んだ歯ブラシも、私とサソリがどれだけの時間共に過ごしたか安易に想像できるだろう。


◇◆◇


ごくたまに考えることがある。もし、もし、私とサソリが出会わなかったとしたら。それは地獄だっただろう。サソリの父と母が出会わなければ、私の父と母が出会わなければ、私達が生まれなければ。そう考えると、サソリの両親の両親が出会わなければ…キリがない。ありえない考えをはりめぐらせると悲しくなった、それと同時に何億という確率の運命に感謝した。私の脳みそじゃ到底考えれない神秘的なもの。そういえばサソリにこんな話をしたことがあった。呆れられたけど、サソリは流さずちゃんと聞いてくれた。もしかしたらサソリも私と似たような事を考えていたのかもしれない。“俺達の出会いは必然、かもな。”その言葉は私の胸を温かくしてくれた。


◇◆◇


サソリはいつもより早く帰ってきた、たくさんの荷物を両腕に抱えて。毎年サソリの誕生日は祭りのようだった。学生の時は先輩後輩関わらず大人のお姉さま達からもプレゼントを貰っていた。サソリの髪のように真っ赤なスポーツカーをプレゼントされた時は、貰った本人すら驚いていた。大人になってもそのカリスマ性は衰えをみせず、むしろ大人の色気にやられた人が多くなったと思う。去年はサソリの年齢の一回りぐらい下の子からもプレゼントを貰ったらしい。


「ただいま。」
「お帰り、…今年も豊作だね。」
「…まぁな。持ち帰れない分は会社に置いてる。」
「いっそ芸能人になっちゃえば良いのに。」
「嫌に決まってるだろ。」


◇◆◇


私以外この変化に気づかないだろう、サソリは妙にそわそわしている。私はまだサソリに誕生日おめでとうと言っていない。多分その言葉を待っているのだろう。今日の私は意地悪だ、まだ言ってあげない。もう少し辛抱してね。


「あのね、サソリ。私、幸福追求権って好きなの。」
「…いきなり何だよ。」
「“生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利”でしょう?それってとても素敵なことだと思う。」
「そうかもな。」


サソリはお腹がすいてるのだろうか、少しむず痒い顔をしている。ごめんね、もう少しだけ話させて。心の中で謝罪して私は言葉を続ける。


「国民一人一人が幸せになっても良いって許されてる。私は、サソリと一緒に幸せになりたい。ううん、サソリとじゃなきゃ絶対にいやだ。」


「良かったら私と一緒に幸せになりませんか。」


冷蔵庫から今日作ったプレーンドーナツを取り出す。甘党のサソリの口に合うかわからないけど頑張って作ったドーナツ。指輪に見立てて作ったドーナツ。形は少しいびつだけど、愛はたくさんこもってますよ。そのプレーンドーナツをサソリは一つ手に取って一口かじった。


◇◆◇


「お前にしちゃあ上出来だ。」
「やった!」
「でも、普通は俺から言うもんだろうが。」
「…ごめんなさい。」
「お前は俺を幸せにしろ。俺はお前を幸せにしてやる。」


サソリはそう言い終えると優しく抱きしめてくれた。甘くてとろけるような優しい抱擁。やっぱり私にはこの人しかいない。ありがとう。私と出会ってくれたありがとう。生まれてきてくれてありがとう。だいすき、サソリがだいすき。


◇◆◇


「お誕生日おめでとう。」
「…ありがとう。」






20111108
Happy birthday, Sasori.
One year also loves you this year.
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