「源田くん、好き。」


私がそう言うと源田くんは笑ってそっと抱きしめてくれた。
源田くんにいっぱい好きって言いたかった。源田くんに好きと言ったのはこの一回だけしかなかった、源田くんはたくさん私に好きって言ってくれたのに。後悔。ごめんね源田くん。






?月??日、晴れ。

今日の朝ご飯は食パンじゃなくて、イングリッシュマフィンにしよう。昨日何となく衝動買いしてしまったイングリッシュマフィン。消費期限が迫ってるから元値より20パーセントオフだった、うんお得な感じ。チンッと軽快なオーブントースターの音が室内に響いた。ふわりとイングリッシュマフィンが焼けた匂いも広がる。心なしか食パンが焼けた匂いよりも美味しそうな匂いに感じられた。きっと食感はサクサクなんだろうなぁと考えながら私はフライパンをふるった。じゅーじゅーと卵とハムがフライパンの上でダンシング。この卵とハムがイングリッシュマフィンにサンドされ私の胃に収まる、私のよだれを誘うのは十分だった。


「んっ、美味しい…!」


食パン慣れした私の舌にとっては久しぶりの豪華な朝ご飯だ。プチトマトが可愛いサラダに、四個入り一パックで100円という破格の安さのヨーグルト。そして手間をかけたイングリッシュマフィン。さくさく、さくさく。源田くん、このイングリッシュマフィン美味しいよ。ごっくん、ああ美味しい。源田くんがいないから一人の朝ご飯はやっぱり寂しいよ、慣れたけど。源田くん、私お料理上手になったよ。誉めて欲しいなぁ、我慢するけど。







?月??日、晴れ。

小さな喫茶店。お客さんが出入りするとカランと可愛い音がする。店の雰囲気とか全部ひっくるめて私の好きなお店。源田くんも気に入ってたお店でもある、でもこのお店はもうすぐで閉店らしい。ああ残念。このお店ホットケーキ美味しいんだもん。もう一度源田くんとこのお店に来たかったなあ。


「 俺もうすぐで結婚するんだ。」
「えっ、あ、おめでとう、佐久間くん!」
「ありがとう。お前にだけはキチンと報告したくってな。」
「こちらこそありがとうだよ。お幸せにね。」


佐久間くんは今日のさんさんのお日様みたいに笑った。その笑顔並みに輝いてる左手の薬指の指輪。そんな佐久間くんとは中学生の時からのお付き合いである。佐久間くんが幸せそうで私も嬉しいや。佐久間くんの笑顔に釣られるように私も笑顔になる。


「俺そろそろ帰るけどお前どうする?送るよ。」
「ううん、いいよ。私まだここにいる。気をつけて帰ってね佐久間くん。」
「分かった。お前こそ気をつけて帰れよ、鈍くさいんだから。」
「っ、最後の一言余計だから!」


佐久間くんは相も変わらず綺麗に笑って喫茶店から出て行った。カランとなる音を聞きながら私はホットケーキを一口食べた。佐久間くんと話し込んでいる間に少し冷めたようだ。それでも美味しいや。甘いシロップの味に不思議と口が緩んだ。羨ましいなぁ、佐久間くん。佐久間くんの結婚報告。時の流れは早いものだ。中学生の頃の佐久間くんと大きく変わってしまった。内面的なのは変わらないのだけど、外見は男らしくなったと思う。最近は女の子と間違えられなくなったと喜んでいた。源田くん、私も結婚したいです。うそ、結婚はまだ良いです。もう一口ホットケーキを食べると何でか味がしなかった。







?月??日、雨。

連日の晴天とは打って変わって今日はざんざん降りの大雨だ。雨の音を聞いてると心が落ち着いて、妙に眠たくなる。へんなの。雨の日は気分が上がらないのが難点だ、あと外に出掛けたくならないのも。だから今日はバイトも休みだし外出を控えよう。と思うのもつかの間、がちゃりと玄関の方から音が聞こえた。私が借りているマンションは年季が入っている、そのマンションのドアノブを回すと特有の音が響く。今私はリビングにいるから玄関にはいないわけで。え、どうして?どっ泥棒…!?普通の来客者はまずインターホンを鳴らすはずで。私は泥棒に立ち向かう武器にフライパンをチョイスした。包丁は人に向けるには怖じ気づいてしまうから。フライパンを持つ手が震えてしまう。手汗が酷くてフライパンが滑り落ちそう。ぎゅっと目を瞑る、源田くん助けて!


「ど…泥棒さん!この家には盗む物なんてありません!」
「…だーれが泥棒なんだ?」


ごとんっ、私の手からフライパンが離れて床に落ちた。手汗で滑り落ちたんじゃない。泥棒だと思った人の声に驚いて落としてしまった。なんで?どうして?源田くんがいるの?


「少し早めに帰って来れたんだ。」
「 うっそ、だあ。」
「本当だよ。」


いつの間にやら私は源田くんの腕の中だった。源田くんの温もりは夢なんかじゃなくて。嬉しいよ、源田くん。幸せすぎて今胸が張り裂けそうだよ。


「源田くん、お帰りなさい。」
「ただいま。」


源田くん、好き。大好きなの。言いたくてたまらなかった言葉。恥ずかしくて言うのに戸惑ってしまっていたのに、今は素直に言えてしまう。源田くんの背中に手を回すと源田くんは一層笑顔になった。

「そうだ源田くん、源田くんにたくさん話したいことがあるの。」
「俺もたくさんあるんだ。それじゃあいつもの喫茶店で話そうか。」

さっきまで大雨だった空は打って変わって晴れていた。通り雨だったのかなあ、なんて今は関係ないか。





あのね私お料理上手になったんだ、あははそうだねお嫁さんになった時苦労しないよ。それと佐久間くんがね、こんど結婚するんだって。え?なあにそれ?わあ綺麗な指輪。…、源田くん、わたし、のなの?うれしい、よ!私でよければ、よろこんで。

結婚するんだから名字呼びは卒業だな。


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