最近買った青色のマニキュア。中学生には少し高すぎる値段だったけど、発色も良くて何となく心惹かれていた。つんとした鼻につく不快な匂い、匂いにあーだこーだ言ってられないけど。マニキュアを塗るんだから。右手の親指、人差し指、中指、薬指、小指…。右手が塗り終えれば左手、と私の肌色に近い薄いピンクの爪が深い海の底のような青に染まっていく。綺麗、私に似合っている色なのか分からないけど青は綺麗だった。
もし、もし。このマニキュアで覆った爪を彼が気づいてくれたら嬉しいなあ。







「丸井くんって恰好良いよね。」
「 それ、俺に言うんか?」
「仁王くんだから言うんだよ。」


そう私が言うと仁王くんは困ったように笑った。丸井くんは恰好が良かった、それはとても。私が丸井くんを評価してみると、容姿はSプラス、運動能力はSS。でも頭脳はA、それでもAは人並み以上だ。特に丸井くんが人より秀でてるのはやっぱり“優しさ”だろう。丸井くんと話すだけで悩んでた気持ちが吹っ飛んだという意見も多数。それぐらい丸井くんは人の気持ちに敏感、私だって生理痛でお腹が痛かった時真っ先に丸井くんが私の変化に気づいてくれて保健室にまで連れて行ってくれた。

そんな丸井くんはモテる、当り前だけど。たくさんの女の子が丸井くんのことが好きで、仁王くんの彼女もその一人だった。仁王くんの彼女、いや元彼女は、仁王くんと付き合う前から丸井くんのことが好きだったらしい。そして丸井くんも仁王くんの元彼女が好きだったらしい。一週間ほど前に仁王くんの元彼女は仁王くんと別れ、昨日めでたく仁王くんの元彼女は丸井くんの彼女になったのだ。


「仁王くんは変だよ、それでいいの?」
「俺が我慢すれば皆幸せになるんじゃ、それでいい。」
「仁王くん、やっぱり変だよ。」


仁王くんは本当に彼女のことが大好きだった、いや多分今も大好きだろうけど。私は仁王くんの考え方がイマイチよく分からなかった。言葉は悪いが、仁王くんは大好きな彼女を気前よく丸井くんに譲ったのだ。辛いなら、最初から別れなければ良かったのに。仁王くん曰くもう彼女の心は丸井くん一直線だったらしいけど。ばっかみたい。今にも泣き出しそうな顔をしている仁王くんの瞳の先は、丸井くんと彼女が楽しそうに談笑している所だった。


「俺は丸井も大切なんじゃ。」
「うん、知ってる。」
「俺の大切な二人が付き合うってことは喜ばしいことナリ。」


もういいよ、仁王くん。仁王くんと丸井くんはとても仲が良い、大切な友達だって私知ってるよ。それなのに私は仁王くんに何の言葉もかけてあげられなかった。仁王くんの悲しい顔、丸井くんの幸せそうな顔、彼女の幸せそうな顔。やめてあげて、そんな幸せそうな顔をするのは、仁王くんが可哀想だよ。


「どうしてお前が泣くんじゃ、」
「仁王くんが泣かないから、仁王くんが我慢するから。我慢するってばっかみたい。」


ほろほろと溢れる涙は止まるという動作を知らないらしい。仁王くんに泣き顔を見られるのは恥ずかしいけれど、仁王くんにかける言葉の代わりだ。仁王くんはくすくすと笑って、私のように泣きだした。ぽろぽろぽろ…、笑いながら泣く仁王くんの器用さに私は驚いた。「ありがとな、」ううん、私何もしてないよ。心なしか仁王くんの曇った顔が晴れた気がする。


「今日のお前の爪、綺麗じゃのう。」
「え、っ。」
「俺の好きな色じゃ。」


ずっと気になってた、と仁王くんは綺麗に笑って言った。仁王くんはさっきまで辛そうな顔してたなんて微塵も感じさせないほど、綺麗に笑った。涙がぴたりと止まった気がする。嬉しい、気づいてくれた。今度は嬉し涙が溢れそう。仁王くん、仁王くん。もし、もし。私が仁王くんの為に塗ってきたって言ったらどんな反応をするの?






20110727
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