先輩は毎日毎日飽きることも無く、昼食はコンビニで買ったミートソーススパゲティで済ませていた。お肉がごろごろ入っていて、値段の割にはボリュームがあって、私達学生にとってはお手頃なものである。ぱらぱらと先輩はスパゲティに付属されていたパルメザンチーズを慣れた手つきで振りかける。そして先輩はほどよくかき混ぜ、プラスチックのフォークでひとくち食べた。先輩は無表情で、全然美味しそうには食べない。もう少し美味しそうに食べたら、もっと美味しく感じると思うんだけどなあ。


「せんぱい、サソリせんぱい。一口下さいよ。」


先輩は少し嫌そうな顔をした。でも、すぐ後に先輩は「ん」と言って一口分ほどのスパゲティが巻きつけられたフォークを私の口元へ差し出した。先輩にあーんをやってもらえるなんて…感激。しかも間接キス…やばい。ふにゃりと口が緩みつつ、差し出されたスパゲティをぱくりと頂いた。ミートスパゲティ食べるの久々、ほどよい酸味のソースとしこしこした麺が私の口内を幸せにしてくれた。コンビニの割には超美味しい!


「美味しいです、とっても。」
「あっそ。」


素っ気ない返事に少しむくれてみる。そんな私の態度を知ってか知らずか先輩はただただスパゲティを食べていた。徐々に減ってきたスパゲティ。先輩とスパゲティを交互に見続けると目がチカチカしてきた。両方赤色じゃん、あぁでも先輩の髪の色の方が鮮やかな赤だ。







ミートソースに襲われる夢をみた。どろどろ、どろどろ、どろどろ。侵食するどろどろとした赤の液体。怖くて逃げ出したいのだけれど私は動けなくて、どろどろの赤に侵食されるのを待つだけだった。せんぱい、たすけて。







目が覚め、時計に目をやると三時二十八分を刻んでいた。辺りの暗さからして今は深夜か。深夜、と分かったと同時にぶるりと体が震えた。目が覚めたのにあのどろどろに襲われる恐怖心が拭えなかった。先輩の声が聞きたいなあ。こんな時間に不謹慎だろうか、…不謹慎すぎる。でも、先輩なら許してくれるだろう。私が何かする度に嫌な顔されるけど、結局いつも許してくれるのだから。
すぐ傍に置いてあった携帯を手に取る。携帯を開けるとぱっと明るくなったディスプレイの明りのせいで目が痛くなった。でも今はそんなことを気にしちゃいられない、アドレス帳から先輩の名前を選択する。

“おかけになった電話番号は現在使われておりません”
無機質な声が私の頭に響いた。何度かけなおしても同じこたえしか返って来なかった。私は、先輩の声が聞きたかったのに。携帯変えたのなら教えてくれればいいのに。先輩面倒くさがり屋だから、私に教えるの忘れただけなのかも。もういいや、明日直接先輩に電話番号聞こうっと。

私はすっかりどろどろに襲われた夢のことなんか忘れていた。






次の日から先輩はいなくなった。



20110723
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