サソリくんは、大層整った顔をしていた。それは、もう、誰もを虜にしてしまう綺麗な顔だった。透き通る白い肌も、つけまつげをつけてるみたいな長い睫毛も、大きくてふんわりした丸い瞳も、全てが神様から与えられたようだった。

でも、それは、数ヶ月前の話だ。

サソリくんは、何者かによって、顔に硫酸をかけられた。犯人はまだ見つかっていないらしい。サソリくんは人を惹きつける力もあったと同時に、たくさんの人から妬まれやすかった。それにサソリくんは他人をすぐに怒らせてしまう性格であった。それらのことがあって警察は、犯人はサソリくんを妬み嫌ってる人だと断定していた。


サソリくんが退院したと聞いて、わたしはサソリくんの家に行った。インターホンを鳴らしてもサソリくんは出て来なくって、痺れを切らしたわたしはドアノブに手をかけた。がちゃり、と鈍い音が聞こえた。開いた、扉が。なんとまあ物騒だ。慣れたようにサソリくんの部屋まで階段を駆け上がる。真っ暗な廊下、ぐちゃぐちゃになったリビング。それはまるで心霊スポットのようだった。

サソリくんを見た瞬間、わたしは驚いた。
彼の顔はほとんど無くなっていた、右目以外、全て。鼻も唇も左目も。妖怪大図鑑に出てくるような、のっぺらぼうに見えた。硫酸のせいで、ただれた皮膚は膿んでいるように見える。いたそう。


「おれを、わらいに、きたのか。」
「ううん、違うよ。」
「おれに、みせつけに、きたのか。」
「 何を。」
「その、かお。おれには、もう、かお、」
「違う、違うよ、サソリくん。」
「じゃあ、なんで、きた、んだよ。」


何も言えなかった。何を言ってもサソリくんは拒絶するだろう。言葉を慎重に選ぶことは、サソリくんから見たら自分を蔑んでいるようにしか見えないだろう。同情、を忌み嫌う彼なのだから。


「さそりくん、すきよ。」


そんな顔になってしまったサソリくんも、大好きよ。ベットで横たわるサソリくんを抱きしめる。ぷるぷると震えている身体、サソリくんの身体はどうしてか分からないけど大量の汗をかいていた。


「さそりくん、なかないで。」


右しかない彼の瞳はたくさんの涙を流していた。なくなってしまった左目の分まで泣いてるのだろうか。やっぱり、綺麗。サソリくんは綺麗。とっても綺麗。





サソリくんの顔に硫酸をかけたのはわたしなの。ごめんね、さそりくん。これもすべて、あなたのためよ。


20110621
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