「ヒロトって生クリームみたい。」


彼女は馬鹿だった。馬鹿、といっても悪い意味では無い。純粋であるが故の馬鹿っていうやつ。彼女は自分の思ったことは素直に言ってしまうから皆からは疎まれる子。でも俺はそんな彼女といると、とても安らげれた。どれだけ嫌なことがあっても彼女が横にいるだけで浄化されるように楽になれた。俺しか知らない、彼女の良さ。俺は多分いや確実に彼女が好きだ。彼女の視界には俺しか映さなくていい、俺だけで彼女の視界を埋めたかった。

彼は天才だった。自他共に認めるほどの落ちこぼれの私にとっては凄く遠い存在であり、決して私には近づく事は出来ない人だと思っていた。何もかも秀でた彼が私に話しかけてきた時は驚いた。罵声を浴びせられてきた私にとってはあんなに優しい言葉をかけてくれた彼に今でも感謝している。そんな私が彼に惹かれるのは当然のことであった。


「ヒロトって生クリームみたい。」
「なんで?」


彼女は美しかった。知れば知るほど繊細で美しく魅力が溢れ誰よりも綺麗だった。汚れきったこの世界に存在してるのに彼女は、馬鹿で素直で生まれたての赤ん坊の様な無垢な姿が俺だけが知ってるだなんて全身がゾクゾクして気分が良かった。これが優越感に浸るという事なのだろう。

彼は醜かった。知れば知るほどいかに醜くて冷たい人物というのが浮き彫りになった。彼は私を誰かと重ね合わせている。私が彼といる時は彼が汚いと思う事は一切出来ないようにされた。トイレも食事も欠伸までも。彼は何かに執着してるように私に自分の持論を押しつけていた。私がそれを拒絶しないのは彼の優しさから離れるのが嫌なのだろう。


「ヒロトって生クリームみたい。」
「なんで?」
「だって誰にでも優しいでしょ?均等に優しい所が人工的に作られた甘い生クリームに似てる。」


彼女を殴ってしまった。事の発端は俺、全部俺が悪い。誰に対しても優しいと思われている自分が憎かった。俺は彼女だけを優しくしているはずなのに。思った事は全て言う所が好きだと言ったのに、彼女の長所に怒ってしまった。

彼に殴られてしまった。事の発端は私、全部私が悪い。心底オブラートに包んで喋れない自分自身が憎かった。思った事は全て言う所が彼は好きだと言ってくれたのはずいぶん昔だったような気がする。


「ヒロトって生クリームみたい。」
「なんで?」
「だって誰にでも優しいでしょ?均等に優しい所が人工的に作られた甘い生クリームに似てる。」
「なにそれ、あの子はそんなこと言わないだろ。」


あの子って誰だっけ?彼女の顔や体は俺が殴って蹴って腫れあがった上に彼女の瞳から溢れ出た涙でコーティング。うん、醜い。俺の知ってる彼女じゃない、今の彼女は俺の知らない子で数分前にいた彼女が大好きなあの子。この子とあの子は同一人物ではない。かけ離れ過ぎている。俺の知ってるあの子はこんな醜くないよね。

あの子って誰?彼に殴られ蹴られた顔や体は腫れあがり流れっぱなしの涙で私の顔はグチャグチャで悲惨だろう。あの子は多分私、彼が作り上げた綺麗な私。彼は私を強引に美化している、恋は盲目?笑わせる。彼は私が醜いことを知らない、ただ知らないだけ。


「ごめんね。」


頭を撫でた。髪の毛は殴る前の彼女と同様に柔らかく大好きな質感をしていた。やっぱりこの子も彼女なんだなあってそう思うと頬が緩んだ。ふるふると首を横に振る姿が俺を拒絶しているような姿が愛おしくてたまらなくなった。醜い彼女もたまには良いかもしれない、知らない感情が体中から溢れ出るような感じがした。

頭を撫でられた。慣れた手つきで私の髪の毛を愛しむ。その優しい手つきが大好きだった。でも、彼の緩んだ頬を見た途端私は初めて彼を拒絶した。迫る恐ろしいヒトがあの基山ヒロトだんて過去の私は想像しただろうか。


或る晴れた日の白昼夢


20110430
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