私がたまらなく鬼道に会いたくなって、一度だけ顔を見に行ったことがある。私の知らない鬼道の笑顔がそこにあった。気持ち悪く醜かった、綺麗な鬼道は消えた。





「久しぶりだね、鬼道。」


柔らかく微笑む俺の…チームメイト。俺が最後に見た彼女と全く変わっていなかった。作られた優しげな笑顔は恐怖を抱いてしまう。


「雷門は今日が卒業式?」
「…あぁ。」
「帝国も今日が卒業式だったんだ。」
「そうか。」


帝国、というワードを強調して発言した彼女はやはり俺のことを未だに恨んでいるのが安易に想像できた。俺が彼女にした仕打ちはどう足掻いたって許してはくれないだろう。それ程までに俺は彼女を深く傷つけた。


「ふふ、鬼道。ゴーグル越しでも分かるぐらい瞼が腫れてるよ。雷門の卒業式は泣けるぐらい良かったんだ。私はね、泣けなかったよ。」


泣ける鬼道が羨ましくて憎いな、ぷうっと頬を膨らましていじけた顔をしてみせる彼女は他人から見たら可愛い顔に見れるのかもしれない。だが俺には憎悪が満ち溢れている顔に見えた。


「あっという間だった?雷門で過ごした日々は。」
「…そうかもしれない。だが…!」
「あっそう、私は長かったなあ。苦痛だったの、毎日が。」


だが帝国で過ごした日々は一日たりとも忘れたことはない、そう言いたかった言葉は彼女の言葉で呆気なく消えた。


「佐久間たちが鬼道を許しても、私は絶対に許さないから。」
「分かっている…。」
「じゃあ今ここで土下座してみる?」





鬼道の顔が歪む。ああその顔を持つ鬼道なら知ってる、私の大好きな鬼道。鬼道はやっぱり歪んだ顔が一番美しい。あんな雷門で見せる気持ち悪い笑顔なんかより百倍マシ。もっと帝国にいたときの綺麗な鬼道を見せて?


「有人。」


鬼道が地面に手をつこうとした時、後方から鬼道の名を呼ぶ声が聞こえた。あの鬼道が私に土下座する滑稽な姿を見れる筈だったのに邪魔するのは誰?


「有人、一体どうしたの?こんな所で…。」


女が私の目の前で鬼道と腕を組んだ。なに、見せつけてるの?鬼道もこの女が来た瞬間安堵した表情を見せた。私と一緒にいるのが苦痛だったのね。鬼道が帝国にいたときは私が女子の中で一番仲が良かった。気の置ける友人を演じていた私が馬鹿みたい。雷門でこんな女と付き合うなんてね。鬼道の首と女の首から同じネックレスが光っていた。きらきら光るネックレスが眩しくて吐き気がした。


「有人、有人。今日は有人の家に行っても良い?」


べたべたと鬼道に触れる女。猫なで声で囁く女が鬱陶しい。私は鬼道さん呼びから鬼道呼びに変えるまでたくさんの時間がかかったのにこの女はいとも簡単に鬼道の名前を呼ぶ。有人、私だってそう呼びたかったのに。


「鬼道はさ、今私に対して早く消えろって思ってるでしょ。」
「そんなことはない!」
「偽善者。」
「俺はただ…、」


嘘つき。雷門に行ってから鬼道は嘘つきにもなったんだね。消えてくれって言われれば素直に消えていたのに。なんて、嘘だけど。私も鬼道並みに嘘つきなのかもね。


「ねぇ有人。さっきから誰と話してるの?」


憎たらしい女が余計な事を言う。鬼道の身が少したじろいだ。鬼道の優しい性格は今も健在のようで私を辛そうな瞳で見つめている。私知ってるよ。


「私本当は雷門に行った鬼道のこと許してるんだよ、心の底では。でもね、私の知らない笑顔を綻ばす鬼道は許さない。だって私はそんな風に笑えなくなったんだもん。」


有人、最後に吐き捨てる様にそう言うと私の視界はフェードアウトした。


20110424
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