シュガースパイス・パレイド

「何その格好」

 それはこっちのセリフだ、という言葉はぐっとお腹の中まで飲み込んだ。怪しすぎる黒アイマスクして平然と外を歩けるデカブツに言われたくない、というのが本音だけれど、それをコイツに言ったところで"何が?"みたいな微妙に噛み合ってない反応をされてまたイラつくのは分かっている。連絡なく部屋に来ることはこれが初めてじゃなかったし、やることだけさっさと済ませて、それを曖昧な関係のまま今の今までずっと継続している私たちはそれに違和感を感じる間柄でもない。でも今日は何せ久しぶりの外出だったのだ。楽しみにしていたことを目前にして気持ちが昂ったせいか、この日ばかりは五条の横暴さが何だか許せなかった。

「……中学時代の友達が、合コン誘ってくれたの。服装迷ったからとりあえずこれにしてみただけ」

 てっきり茶化されるとばかり思っていたのに、五条は無表情で「へえ」と返すだけ。彼が目隠し越しに上から下まで私を吟味するように眺めるもんだから急に不安に襲われる。オフショルダーなんて久しぶりに着たけどこんな感じで良かったんだっけ。そわそわした気持ちを落ち着かせるよう、五条に背を向けて二の腕にかかっているゴムの位置や、中に着たチューブトップを調整していると、背後から大きな影が覆いかぶさった。あっという間に前に回ってきた腕が腰のあたりで交差してキツく私を締め付ける。

「ちょっと。今忙しいんだから離して…」

 感情を顕にした私を無視して、あろう事か五条はするりと胸元に指を差し入れ、そのまま服を引っ張った。浮いた布の隙間から、寄せて上げて頑張った谷間が良く見えている。

「うわ、雑っ魚〜」
「え…、え?ちょっと何なの…っ!?」

 肩を掴まれて、くるっと向きを変えられた次の瞬間にはもう、胸元に五条の顔が埋まっていた。色気も可愛げもないズゾッという音に合わせてピリッと皮膚に痛みが走る。

「ねえ!?馬鹿なの!?!?」

 あまりに綺麗だから、何だか気が引けて普段は触れない白色の髪の毛を乱暴に掴んで五条の顔をそこから引き剥がす。胸元から離れていく五条の口角が両側とも綺麗に上がっていたのを私は見逃さなかった。

「馬鹿!最低!なんで!?」
「何か気に食わない。ただそれだけ」
「意味わかんないし…着替えてくる――」
「…これだけで終わるわけねぇじゃん」

 視界がガサガサとブレたあと、気がつくと私はベッドへと寝転んでいた。起き上がろうと咄嗟に体を動かしたけれど、それは容赦なく私の肩を押さえ付ける手にいとも簡単に封じられてしまう。

「も……、ほんとに何なの…」

 もがきながら半泣きになる私を、五条は嘲笑った。目隠しを首元に落として顕になったその目はギラギラと獰猛に光っている。

「…あ、今日オマエを誘った友達の名前教えてよ」

 五条が仕事着から中に着ているロングTシャツまでを脱ぎ去ったところで、とぼけたように口を開く。私はといえば先ほど彼からお見舞いされた強烈なキスで軽く混濁状態だ。ずっと目の前でチカチカと星が回っている。

「友達……?なんで…?」
「断りの連絡入れておいてやろうと思ってさ。僕ってば超優しいよね。つい最近野薔薇から教わったんだけど、まさにしごでき〜って感じ?」

 ホラ、と見せられたスマートフォンの画面には『気になる人が出来たから今後一切合コンに誘わないでほしい』という旨の内容が記載されていた。いつの間にこいつは私のスマホを我が物顔で支配しているのだ。しかも、画面の右上にはしっかり今日会う予定だった友人の名前が映し出されている。ていうか、気になる人って何。誰?

「なんで……」
「これから説明してやってもいいけど、ちゃんと理解できる?オマエ、僕とヤッてる間はずっととろっとろなんだもんなぁ」

 肩の骨が浮き出た部分に、容赦なく彼の歯が食い込む。痛みで生理的な涙が滲んだかと思えば、それ以上に大きな快感が体を駆け上がり、気付けば私の口からは甘ったるい嬌声が飛び出ていた。それをしっかり耳に入れたらしい五条は、大声でそれはそれは楽しそうに笑う。どうしてそんなにも無邪気に人を支配できるんだろう。コイツは悪魔だ。魔王だ。間違いない。

「ははっ、かーわい」

 嬉しそうに語尾を上げる五条を見て、薄々勘づいていた本当にヤバいやつに手を出してしまったかも、なんてことがいよいよ頭をよぎったけれどもう遅い。だって、五条から言われる"可愛い"がこんなにも私をときめかせるだなんて。私はとうに持ち物も、体も、思考も、何もかもこの悪魔に支配されてしまっていたのだ。

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