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プロポーズは突然に
「トナカイになる気はないか?」

「はい?」

街が白く濁って感じる夜だ。

帰路を急ぐ人の群れ、そこかしこで立ち上る吐息。
ぼやけたネオン、けたたましいほどの、あるいは半月ほどの間に聞き飽きた、あらゆる種類のクリスマスソング。

いつもより余計なことばかり話すと思っていたマットの突然の誘い。

…下働きか。

「嫌よ、何にこき使うつもり?」

「違う、違う」

まるでこちらの察しが悪いとでも言うようにマットが頭をかく。

「そう言う意味じゃない、じゃあ、あれだ、サンタの服のボタン」
「ボタン」
「そう、ボタンになる気は…」
「ないです。…えっ、なに?何なのどういうこと!?」

様子のおかしいマットが面白くて、つい吹き出してしまった。

笑ったまま二人で一本路地を曲がると、人通りがぐっと減って静かな道に出た。飛び飛びになった小さな商店の灯りが、ぼんやりと光っている。

裏通りには家族の元へ急ぐ、スーツ姿の人がちらほら。みんなケーキやプレゼントや…何かを小脇に抱えてとても幸せそう。

自分には少しだけ遠い世界を垣間見ていると、マットが私の手を握る。熱い手。熱でもあるんじゃないか。

「…あーいうの、いいなって思わない?」
「うん、思う。幸せそう!」

「……だから、例えが変だったけど。その、来て」

「…へ??」

そういえばクリスマスソングが遠い。
表通りを離れたからなのか、私の頭が違うことでいっぱいだからなのか。

「だから俺が、この先遠くへ行かなくちゃいけない時とか…重要な責務を負うことになったとしても」
「…しても」
「離れたくないんだ。そばにいて欲しい。だから、一緒にいてもらえない?できればずっと」

次に耳に飛び込んできたのは、

“ソー ディス イズ クリスマス”

鐘のなるような

再び頭の中に戻ってきた、胸高鳴らせるクリスマスソング。

「マットごめん!!!」

ああ最初に言う言葉を間違えた。一瞬曇るマットの表情を見て、急いで急いで続きを紡ぐ。

それなら話は別だ。私も、旅路のお供になりたかった。ずっとそう、願ってた。

「ソリでもいいし、プレゼントの袋でもいい!一緒にいさせて!」

思わずマットの頬を両手で包む。今度は私の熱をあなたにあげる番。

そうやって、交換こしながら。

そういうことでしょう?最高だね。

「うわ…まじかよ。いいのかよ」
「自分から誘ったんでしょ!」
「そうだけど…」

もごもご呟いたマットは、それでも丁寧に、確かめるように私を引き寄せる。
胸に耳を寄せたら、鼓動が聞こえるみたい。

「じゃ私はお供の何になりましょうか。サンタの靴?トナカイの手綱?」

緊張を誤魔化すように茶化して言ったら、マットが腕に力を込めていく。

「横に乗せるプレゼント。絶対誰にも渡さないで、ずっと俺が大切にする」

…なんて素敵。

ア ベリーメリークリスマス!

鼓膜を揺らす音楽と彼の覚悟。

瞼を閉じて身を任せて、私はそれはとてもいい考えだと思った。


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