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Hack!!
瞼の裏が明るい…朝か…まだねみぃな。

夢を、見た気がする。


Hack!!



「ナナちゃん、2月といえば?」

試すように聞いておかねばならない。
せめて一度くらいは。

「バレンタイン?」

目を丸くしたスイートハニーは質問に対しごく正しい答えを言ってのける。
そうだけどさ。そうだけど違う。
黙る俺を尻目に、ナナは早とちりな会話の独走を始める。

「やだ、自分でアピールしてまでチョコ欲しいの?」

そういうことじゃなくて。

「メロのとこ行けばいくらでもチョコあるわよ」

そういうことでもなくて。

「あ、でも」

あ、でも?

「メロ枚数チェックしてるから、怒るね。多分。大量に持ってるのにね、こわ!」

そうじゃなくて!!


2月といえば?

今日、2月1日といえば。

俺の誕生日、なんだけど。

…言えないよなぁ。一応、"シークレット"は守るよう言われて育ったし。
わざわざアピールすんのもみっともないし。

そんなもの祝ったりしなくても粛々と日々の生活を送る、それが格好いいんじゃないかと思っていたのだが。
俺は見てしまったのだ、ナナがお誕生日おめでとうのキスを、俺以外の男にしているところを!

その男、推定年齢5歳。
先日ハウス内を移動していた時だった。合同誕生会で一人一人に祝福の言葉をかけているナナの声につられて、会場となっているホールを覗いた時だ。
俺は目撃してしまった。

ナナの柔らかな唇を奪うあの滑らかな頬を!!

ずるい。俺もして欲しい。してくれてもいいと思うむしろされるべき。
今日誕生日で、俺はナナの彼氏だぞ?これをほっとく彼女がいるか?

…とはいえ。自分から名乗りねだるのも何か違う。
こんな時普通のカップルはどうやって過ごすんだ。
あぁそうか、普通のカップルは誕生日を教え合うのにこんなに苦労しない。

もうプライドもシークレットもかなぐり捨てて、キスひとつの為にひれ伏すか。
そう考え始めた頃、視界を潰すお邪魔虫が顔を出した。

「なーにをそんなにうな垂れてんの?」

俺の誕生日を無視する、愛しくてたまらない最強にいい女のお出まし。

「…別にー。

ぅわっ!!」

座っていたベッドにうつ伏せになって倒れるつもりが、次の瞬間視界が捉えたのは天井だった。天井と、垂れた髪の間に不敵な表情のナナ。
かわいい。くいたい。

俺はナナに腕を掴まれて押し倒されたらしい。ベッドに沈まる両手首と、跨がるようにして俺を押さえつけるナナの足、というより下半身。やばい、当たりどころがまずい。
抱かれる側の女の気持ちが分かるかも。言うなれば、ドキドキ。
きゃー!好きにしてー!…なんつって。
俺の想像が合ってればだけど。

ナナは、視線を下にずらして妖艶な笑みを浮かべる。こんな表情もできたのか。
女ってのはオソロシイ。

「こうして欲しいのかな?」

お見通しなナナの顔が斜めに角度を付けて、段々と近づいてくる。身動きできずそのまま固まっている従順なぼく。

ちゅう、と互いがぴったり重なるお手本のような美しいキスが降ってきた。

ふわっと離れる柔らかな唇。
これだけで充分すぎるサプライズ、なのに顔を離したナナの言葉を聞いて俺は完全に心を奪われる。

「お誕生日おめでと、マット」

「…え?」

なんだ、これ。
こんな、こんなの、胸が高鳴って…きゃー!
まさに抱かれる側になった気分。
俺の想像が合ってるなら、だけれども。

「何で知ってんの?」
「ハッタリかもしれないんだから一度で認めちゃダメでしょ」
「今は別にいーだろ」
「…ちょっとハッキングさせてもらいました!うふふふふ」

そう言ってナナはペロッと舌を出す。答えてはくれないらしい。

マット様の情報管理といえば右に出る者はいないだろ。ましてや誕生日なんて不必要な情報、そもそも俺の記憶以外に記録してる場所なんてなかったはず。
漏れ出る訳がない!漏れ出たとなると、どうでもよかった誕生日が途端に重要な個人情報に思えてくる。
…どうやった?

「教えろって!」

隙をついてナナに捕らえられた手を抜き肩を掴んでひっくり返す。今度は形成逆転。

「きゃぁっあはっやだ!くすぐんないで!」
「早く吐けっ」
「ぎゃぁーっやだぁ!くすぐったい!あはは…」

体をくねらせるナナを押さえるようにくすぐって、俺たちはベッドの上で一つの塊になってじゃれ合う。
しばらくナナは事の真相を話さなかったが、結局二人楽しく誕生日を過ごせて、俺の人生で一番楽しかった日はナナの手であっさり「今日」に更新されたのだった。


それはそうと後で情報漏洩の真相を聞いてひっくり返ることになる訳だが…それはまた、別の機会に。


*end…??

▼continue



マットの誕生日を知りたい。

私には当てがある。
先日、ハウスのみんなと1月の合同誕生会をやっている時、ふと思い出した。
小さな頃、2月の合同誕生会で祝われていたマットの姿。
…記憶が確かなら。


「問題は、2月なんにち?」


Hack!!
side*ナナ


あのコンピュータマニアから情報を抜き取る手腕を持たない私は、ずばり、酔って気持ちよく眠っているマットの寝込みを襲った。

足を投げ出して寝るマットの横にピタリと張り付く。手を這わせると、いつもより少し大きく上下している胸。片方の足を、マットの足に絡ませるように差し込む。
普段なら絶対やらない大誘惑にも気がつかずに眠り続けるマット、残念!
いびきになりかけのガーガーという呼吸は、アルコールの匂いをまとっていて鼻につく。

…最短コースで終わらせる!

マットの耳に口元を近付け、優しく啄ばんでから少しだけ息を吹きかける。んん、とマットが色っぽい声を出す。今だ。

「ねえ、マットのお誕生日って2月の何日?」

「…んー?」

ぐうぐう眠るマットは、私の頭と身体に手を回し抱き枕のように包み込む。
おもい。くるしい。

でも諦めずに少し間を置いて…。
再度静かに問いかけてみる。
まるで夢の中の会話のように。

「ねぇお誕生日、2月なんにち?」

囁いて、きゅう、と抱きしめる。
好き、好き。
私達は、私達だから。
真正面から誕生日なんて聞けないの、分かってる。

「ふぁ…すと」

その時、マットがポロっと。

「First!?」

聞いておきながら、とんでもないことをしでかしてしまったような焦りがあった。でも、でも。

「…February First??」
「Yeah…zzz」

Oh…素晴らしい情報を得てしまった。奇襲作戦は大成功。
真実なのかはまだ分からないけれど、私はこれを頼りに動くしかない。

収穫に満足した私は抱き枕にされたまま眠りにつくことにする。今動いて起こしてしまったら台無し。
腕から伝わる刺激でいい夢を見ればいい。
これもまた、誕生日のプレゼント。

それにしても、何たる脆弱さ。

マットの寝込みは他の誰にも襲わせないようにしなくては。
嬉しくて興奮する気持ちの中に、ほんの少しの罪悪感を抱え思わずそう誓う。

目を閉じてマットの胸に顔を寄せると、とくとくと規則正しい心音が聞こえる。
生まれてきてくれて、側にいてくれて。
奇跡みたいな今に精一杯の感謝を込めて、ありがとう。
胸が温かくなる頃、私はもう一つ心を込めて誓った。

(素敵なお誕生日に、するからね)


happybirthday!!!Matt**
2016.2.1
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