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いいな
あぁ、いいな。

窓の隙間から入り込んでくる風に乗って耳をくすぐる虫のこえ。

名前の分からない、芳しい木の香り。

見えもしないのに夜の闇の中、少しの街灯が木々の間で光をこぼしている風景が目に浮かぶ。

露出したままの腕を少し肌寒くさせる温度、いいな。

いいな。

メロのことを心配する私。いいな。


柔らかなガーゼケットを胸までそっと上げて、細身の体が冷えないように想いを配る。

それを嫌がらないから、今日のメロは本当に眠っているみたい。

一定のリズムで刻まれる呼吸、いいな。
一定のリズムで上下する肩、いいな。
生きてるって、感じがするな。


それからあちらを向いたままのメロの、後ろ髪の毛束を少しだけ取って、なんとなく三つ編みをする。

綺麗なメロの髪に触れることができる現実、いいな。嬉しいな。

「…クセがつく」

声と共に伸びたメロの手に、制止を受ける。

「起きてたの?」
「起こされた」
「…ごめん。もう寝る」
「ん」

三つ編みをほぐして、ちゃんと整えてあげる。
滑るような指触り、いいな。
メロの匂い、いいなぁ。

「ナナ、何考えてる」
「…いいな」
「…なんだそれ」
「ね」
「ねってなんだよ」
「ないしょ」

答えると、振り向いたメロに髪をぐしゃぐしゃにされた。

ぐしゃぐしゃにされる距離か。向かい合ったら膝がぶつかる距離、いいな。

どうせ一晩くっついてはいられないのに寝る前だけ手足の温度を共にするの、いいな。無意識になったら簡単に手放される手は、幸せのぬるま湯に浸かって同じような明日が来ると信じてしまえるほど、穏やかで満ち足りた日常の証。
髪をぐしゃぐしゃにしても許される心の距離、いいな。

いいな。

いいな。

起きていたのに私がかけたケットをそのままにしていてくれたメロ。

私の本心なんてほんとは見抜いてるメロ。

隣りでちゃんと呼吸しているメロ。

いいな。

明日も同じような日が、来るといいな。
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