ビキニなんて絶対着ない!メロ編
むっつりスケベといったら、誰だと思う?ニア。
そうよね、そう思うでしょ。
でももう一人いるの。
メロ。
メロだって"むっつり"だと思う。
何故なら、セクシーな男の人の割に、セクシャルな話題が少ないから。
匂わせないでしょう?
だから逆に怪しいの。
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いつになくピリピリしているのには理由がある。
メロと海に行かなければならなくなった。
捜査の一環で尾行をするのに、海辺の人混みに紛れるのが一番だとLから指示があった。
当初はこの指示に何の異論もありませんでした。私は全く関係がなかったから。
ところが、友達同士という設定で行くはずだったマットが、直前にして夏風邪をひいた。ひきやがった!
あぁ、コホン…。友人であるマットくんの不調はとても気の毒ではあります。早く治って欲しいですね。が、しかし。
そんなマットのお陰様で急きょメロとカップルという設定で私が駆り出されることになり、大焦りしている今なのだ。
ずぇったい嫌だ!ずぇったい水着着たくない!ビキニなんて、絶対着ない!!
私が頑なにビキニを拒否するのには理由がある。
前にメロがグラビア雑誌を持っているのを見てしまったことがあるのだ。
「お前好みだろ!byマット様」と走り書きのメモがつけられた雑誌は、少ない布で身体を隠した際どいポーズのお姉さんが艶かしい表情を浮かべてこちらを見ているという、不埒な写真が表紙を飾っていた。
お前好みと評されたそれをいそいそととっといているあたり、マットの分析は正しかったということなのよね?
谷間がいいのか?
くびれがいいのか?
ヒップラインマニアなのか?
私の妄想は止まることはなく、金髪少年の性的嗜好について考え続け、いつの間にかメロむっつり説を作り上げてしまったくらいだ。
「…ナナ、明日のことでちょっといいか?」
「ぎゃあぁっ」
「ぎゃあって…」
むしろこちらが驚いた、という表情のメロに、私は警戒を絵に描いたような視線を送る。
「明日?なに?なに?ビキニなんて絶対着ないよ?!」
「お前まだその話してたのか…」
「だってメロむっつりだからね!!」
「…あ?」
「わ、私知ってるんだからね!マットからもらった雑誌保存してるの!!」
「…」
黙った!!
これは核心をついたかと生唾をごくりと飲み込む。
しかしメロは意外にもあっさりと認めた。
「あぁあれか…」
あれ?焦ってる様子がない。
「ったく…ちょっと来い」
「ぎゃあっ」
「ギャーギャーうるさい」
手首を引っ張られて連れてこられたのは、メロの部屋。
本棚の横の隙間に隠し気味に置いてあるグラビア雑誌をおもむろに取り出す。
「そ!それだよそれそれ!いかがわしい!」
「…よく見ろ」
騒ぐ私を遮り、メロはマットがつけたメモをめくって裏を見せる。
「ん?!」
私は思わずしかめっ面になりながら、目をこらす。
アルファベットと数字の羅列…
「なに…これ??」
「パスワード。マットに調べさせてたデータの。堂々と渡せないからこうやって持ってきたんだろ」
「あら…」
途端に恥ずかしくなる。
私ってば、早とちり。
そして二人で見つめる手元にある、際どい女性の淫靡な写真。
「ったく、よほどコンプレックスなんだな」
「そっそりゃぁこんな人と比べられるかと思ったら嫌に決まってるでしょーー!」
「覚悟決まったんなら大人しく寝ろ」
「上にUVパーカー着るからね!」
「着なくたって見ねえっつーの」
ああ、メロむっつり説は否定されたものの、やっぱり改めて水着で出かけるのは恥ずかしい。
でも少なくともメロはグラビア写真のようなお姉さんが好きという訳でもなさそうだし、ここはぐっと堪えて捜査のお役に立たねば。
私は覚悟を決めて自室に戻ったのだった。
―その夜―
「おいメロ!こないだ俺がやった動画サイト見たか!」
「…」
「俺様がパスワードと一緒にオススメしてやったやつだよ!」
「あー…助かった」
「だろ?メロの好みばっちりかと」
「いや…色んな意味で…」
「はあ?」
「久しぶりに焦った」
「メロが焦るなんて珍しいな!」
「…」
「ん?何の話だ?」
「…」
「教えろっ教えっゴホッゲホッゴホゴホ…」
「うつるから離れろ」
「おいてめええ俺のおかげでナナの水着姿見られることを忘れるなよ!写真撮ってこいよ!涙」
「無理に決まってんだろ」
だがしかし、マットのおかげでうまくごまかせたのも事実。
せめて1枚くらいナナの写真を用意してやるか?と思わないでもないメロなのでした。
*end*