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ビキニなんて絶対着ない!ニア編
ニアが機嫌良くコントローラーを操作する横で、私は不貞腐れていた。

ここは、温水プール。

白銀の王子様、いや王様がアヒルのおもちゃをスケールアップした舞台で楽しみたいとかなんとか訳の分からないことを言い出して呆れていたら、既に貸し切りでプールを手配してあるというので仕方なくハウスを抜け出し二人でやってきたのだ。

「聞いた時はもうちょっと見応えあって楽しいかと思ったけど、すごく淡白ね!ずっと見てたら飽きてきたー」
「見応えならじきに出ます」
「既に飽きてるのに見応えは絶対出ません」
「…」
「こんなことなら水着でも持って来れば良かったなぁ」

私は足だけをちゃぷちゃぷとプールに浸しながら呟いた。膜のようになった水が足の動きに合わせて揺れる、揺れる。

「そんなこともあろうかと、荷物に水着も入れておきました」
「あれっ!?そうだったの?用意がいいね」

私は嬉しい知らせに喜び、大急ぎでビニールバッグのところへ行く。

中身を見てみると、アヒル、アヒル、アヒル…水鉄砲…
思わず文句を言いそうになったその時、白無地の水着を発見!

だけど…

「ビキニ…!

しかも、何この布地の面積!!」

こんなもの、初めて見た…。

ほとんど局部しか隠れないであろう、とにかく布地の面積の少ないビキニ。

「ただでさえビキニ着たくないのに、こんなの絶対着られない!」
「ナナがプールに入りたがると思って用意しておいたのですが」
「もっと他にあるでしょ!これじゃ裸と変わらない…というか恥ずかしいから裸の方がましなくらい」
「では裸でどうぞ。管理者には内緒にしておいてあげます」
「そういう問題じゃなーいっ」

もう…せっかく入れると思ったのに。
さすがにこれを着る勇気はない。

私は諦めてプールサイドに戻り、またアヒルが水面を勢いよく右へ左へ移動する様を見続ける。

「もう帰ろうよー…」
「これからがいいところです」
「…」

バシャバシャバシャッ!!

私は腹いせに大きくバタ足をして水音を立てまくった。我ながら子どもじみてはいるけれど、何たって暇なんだから仕方がない。

跳ねた水がニアの前髪を濡らしてしまい、振り向いた彼の視線に私は射抜かれる。

艶やかな銀髪はいつもより緩く下に引っ張られ、隙間から覗く瞳の中で水面から反射した光がちらちらと揺れている。
これはまたセクシー。悟られないよう黙ってみても、鼓動だけは素直で正直。

ニアが珍しく、自らタオルを取りに立ち上がった。ペタペタ進む後ろ姿を目が追いかける。
しゃがんでビニールバッグをゴソゴソしているニアの足の裏を眺めていたら、ため息と共に呆れたような声が聞こえてきた。

「ナナ、これは人形用です」

言葉と共に床に落とされたものを見れば、それは先ほどの面積の少なすぎるビキニ。

「んっ?」
「あなたに用意したのはこっちです」

ニアにビニールバッグを渡され中身を出してみれば、さっきに比べてずっと布地の大きいちゃんとした水着。

特段生地が大きい訳ではないけれど、さっきの水着のいかがわしさの衝撃が大きかったので、ビキニだけどこれくらいならいけそう、という気がしてくる。

「…何を勘違いしたのか」

ニアに怪しい視線を向けられ、自分の早とちりに恥ずかしくなる。

「…ちょ、ちょっと誤解しただけだもん。着替えてくる!」

私は慌てて着替えに走った。

*

タオルを羽織りながらニアの近くに行き、私はそうっとプールに爪先をつけた。ひんやりを想像していたけれど、足先から伝わる温度は思ったより冷たくなく、そのままスムーズに身体を預けられた。

「気持ちいい〜!」

久しぶりのプールにテンションも上がる。

コントローラーで動かされるアヒルと競争して泳いだり、ニアの邪魔をする為にアヒルを沈めたり(イラッとしているニアを見るのは非常に小気味良い)。

アヒルウォッチングは俄然見応えを増した。

勢いよくこちらに向かってくるアヒルのおもちゃを胸元でキャッチしたところまでは楽しかった。
しかしニアがいつもよりほんの少し楽しそうに呟いたのを耳にして、私は自分が罠に嵌ったことに初めて気が付いた。

「無理難題を押し付けた後ギリギリの妥協案を提示する…俗に言うところのハイボールテクニック」
「ん?」
「人形用の水着を間違えて持ってくる程私は馬鹿ではありません」

じゃあわざと人形用の水着を?

…なぜ。

「!!」

小さすぎるビキニを見た後なら普通のビキニに抵抗がなくなる…
最初からニアの思惑通りだったってこと!?

気付いた頃には時既に遅し。だってもう、まんまと着替えてしまったのだから。
私は目を残して水に浸かり、抗議の視線を送る。水圧が身体にかかって気が紛れそうなものの、水は透明なので結局丸見えだ。身体を隠すのもおかしいし、かといって堂々とお見せする程自信もない。

どうやってプールから上がろう。

こちらは水温を上げそうな程恥ずかしいやら悔しいやらなのに、その様子に満足そうなニアはマイペースに続けたのだった。


「見応えが出たでしょう?やっと"いいところ"になりました」

*end*
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