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火照るのはどちら?
「入るよー。あーあづい…」

夏の入浴のだるさと言ったらない。せっかく汗を流したというのに、髪を乾かしている間にまた汗をかく。
そんな時決まってここに来る、何といってもニアの部屋が好き。
何故なら…

「快適だから」

私の頭の中などお見通しのニアが、突然口を開く。

「と度々私の部屋に来るの、やめてもらえますか」
「何で!いいじゃない。涼しくて最高」

そう、お風呂上がりはこの部屋が一番。大好きなニアがいるし、何せ年中快適温度、間違いなし。

「ナナさんが来ると熱くなるんですよ。特に入浴後は」
「迷惑?」

少し上目でしおらしくしてみる。

「迷惑です」

一刀両断。

「何でよー!どかないもんね!」
「…」

ニアはぷい、と頭を背けるようにして反対方向を向く。何なら床にあったパズルも引っ張って、私の方は絶対向かないと決意表明している。

何よ…拗ねたくなるけど。
ニアはここで難事件をいくつも解決してるんだもん。
そりゃあ、私が横でゴロゴロしてたら迷惑だよね。
いくら好き合ってるとは言え、相手に配慮しなくなったら終わり。親しき仲にもなんとやら。

でもだからといって一緒にいられないのは寂しいので、自分の部屋に戻る気はない。ほら、それにエアコン代も節約になるし。

考え事をしているように見えるニアの邪魔にならないよう、私はそうっとベッドの方へ移動する。

「ここで静かに寝てるだけならいい?」
「いえ、余計に迷惑です」

ニアはそう言うけれど声色はさほどきつくなく、本当に迷惑がっているようには感じないので私はベッドから降りずにいた。


さらさらとしたシルクの寝具は寝心地抜群。
火照った身体をすーっと包み込んで、極上に心地いい。

そしてそこに、ほのかなニアの匂い。

私は目を瞑ってこの感覚に酔いしれる。
まるでニアに包まれているような、そんな感覚。
頬ずりして寝返りして、おっといけない静かにしないとと丸まって大人しくしているうちに、いつの間にか私は眠ってしまっていた。

*

ふと気が付いたのは、自分の身体が後方に少し沈んだから。

―――?

まだ半分夢心地でいると、首元に熱い刺激が加わり、ぴくっと身体が反応する。
寝返りをしようと思っても、顔の横で手首を押さえられ、思ったように動けない。

―――あれ?

やっと意識がはっきりしてきて目を開けると、ニアの顔がごく近いところにあった。

「…っ!」

驚く間もなくニアの唇が落ちてくる。
熱く、熱く、何度も。
啄むように、挟むように、絡め取るように。呼吸まで捕らえられ、息をすることすら許されない。

「はっ… くるしっ…」

言葉を発せられるようになった時には、ニアの唇は再び私の首筋を捉えていた。たまに荒くなった呼吸が耳元に届いて身体が震える。

「あっ、ちょっと…!どうした…の?」

身を任せたい衝動を抑えて、ニアの肩を掴んで呼び止める。

顔を上げたニアは、いつもの白い肌にほんのりと赤みが差して上気していた。
口の横についた唾液を手で拭いながら、まだ半分興奮冷めやらぬ顔でこちらを見ている。鋭く据わった視線に捕らえられ、私も顔が熱くなる。

「だから…迷惑だと言ったんです」
「え?」
「ナナ…入浴後の香りをぷんぷんさせて、火照った様子でいつも私のところに来ますが…誘ってるんですか?」
「???」
「自覚がないようですが、男だったらそう受け取ります。」
「はぁ!?ニ…ニアの変態!」
「だから迷惑だと言ったんです。
その状態のあなたが横にいたら気が散るのは当然でしょう」
「いっいかがわしいこと考えてるからでしょっ!」

私はついさっきこのまま身を任せるか迷っていた自分を棚にあげ、言葉を返す。

「…男とはそういうものです私だって例外ではありません。
しかし私は事前にあなたが部屋にいると熱くなると伝えておいたはずです。
それに…ここは私のベッドですよ」
「…」

確かに無防備だった。

まだ獲物を捕まえたような目をしているニアを見て、逃げられない、と感じる。

でも本当は、逃げたくない、とも感じている。

しばし目を逸らさず私を見つめきったニアは、どこまでも私の考えを見通せるらしい。

「覚悟が決まったようなので」

ニアの顔が、唇が、また近づいてくる。


…もうお互いに火照ってるんだから止められないか。

私は降ってくるキスに身を任せ、ニアのボタンに手をかけた。

火照るのはどちら
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