Santa Claus
“あなたはサンタクロースを信じますか?”大仰なテロップが映し出されるテレビ画面を見ながら、マグを傾ける。
「おいしー」
ひとりごとを言って、立ち上がった。
どこかと通信しているLのぼさぼさ頭を素通りして、キッチンへ。
用意しておいたもう一つのマグカップを満たして、彼の忙しない手元に届ける。
ちょうどもう一方のマグの最後の一口を飲み終えたLから、空になったカップを流れるように受け取る。
「ココア超美味しいよ」
「そうですか、どうも」
私達はそれ以上の会話は交わさず、またさっきまでの動作に戻る。
おじいさんは 山へ芝刈りに。
おばあさんは 川へ洗濯に。
私はテレビを見て、Lは捜査をする。
クリスマスの夜も至って特別なことはない。
いつもと同じ。代わり映えのない時間。
ふーっと深呼吸して、この時に酔いしれる。
もう一度ココアを喉に流し込むと、Lが突然言った。
「あなたは信じてますか?サンタクロース」
「もちろん」
間髪入れずに答える。私の答えを聞いても、Lは特に驚くでもなく、感心するでもなく、興味すら持っていないように見える。
けれど私は、何事にも頓着のない彼が物事に興味を持っていないように見える”だけ”なことを知っている。
だから口を開いて、いつでもこの想いを形あるものにしたくなる。
「この世界で、特別に幸せなことって何だと思う?」
聞いてないように見えて、Lはすぐに「難問ですね」と応える。
「…正解は人それぞれ違うかもしれないけど、私は、明日がちゃんと来ること。
まだ見ぬ未来を、疑うことなく過ごせること。
それをすごいことだなって思ってる。地味だけど、幸せというか」
テレビの中ではしゃぎ立てる人々だって、眠りにつく時、一人になってふと思うかもしれない。明日のことを。
「その明日が、毎日が、平穏無事に訪れるよう、悪い奴を絶えず捕まえてくれる人を知ってるの。彼がサンタクロース」
「…随分悪趣味なサンタクロースですね」
「ふふふ、自分で言う?」
「何のことだか」
そして私たちはまた長く無言になる。
ママがサンタにキッスする夜だから
恋人がサンタクロースだって十分あり得る。
暖房のきいた暖かい部屋。
これからまた一年、一緒に過ごせますように。
それが趣味の産物だろうと構わない。
なんとはなしにこの世界を守り続けるあなたの、変わらない明日を私が守るよ。
「L、いつもありがとう」
言葉に想いが宿る。穏やかな二人だけの夜。
「…こちらこそ」
Lも静かに相槌を打った。
Santa Claus