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おとこで。
カタカタカタ…と静かにキーボードの音が響く午後。

Lの部屋に一人の訪問者。と言ってもこの部屋に訪問する可能性があるのは二名のみ。ワタリは出ているので、

「どうぞ、ナナ。」

Lが声をかける。

「すごい!何で分かったの?」

これくらいのことは誰でも分かるのに…尊敬と興味の目をこちらに向けてくれるナナを、Lは今日も愛しいと思う。

「ワタリには用事を頼みました、3日程帰りません。」

「えっ!そんな大事なこと…ワタリから聞いてない!」

「急だったので。」

そう…、と返事をしてナナは顎に指を当てる。

(どうしようかなぁ…。)


実は、ナナの部屋の電球が切れてしまい、交換したかったのだ。

ほとんどの雑用をこなすナナだが、こういった作業は男手であるワタリに頼んできた。

(目の前にも男手はあるけれど。)

ワタリの外出だけ伝えて自分の作業に戻るL…

には、快い協力は見込めないだろう。

ナナは早々に諦め、

「そっか。分かりました!自分でやってみよう。」

と独り言のように返事をする。

「どうしました?」

「え…いやー、私の部屋の電球が切れちゃって。」

「不便ですね。」

「うん。」

「では私の部屋にずっといてもいい
「1日動き回ってるからうるさくしちゃうよ。」

「では今日は1日何もせず私の部屋に
「電球くらい自分で交換しますとも!」

Lは、口車に乗せ自室にナナを置いておく流れにしたいものの、今のやりとりからそれは難しそうだと判断する。

「…では私が交換してあげましょう。」

「っえっっっっっ!!!?

  Lが!電球を!交換!?」

「驚きすぎです。」

「だ、だって珍しすぎでしょう?出来るの?」

「失礼ですね。普段やらないだけで、やれば出来ますよ。」

「ぃ、いいの?」

ナナの顔に少しの遠慮が滲む。

Lに任せられるのかという疑問と、

多忙なLに雑用を頼む申し訳なさ。

「ナナの為ですから。」

Lが答えると、

「本当?自分でやってみるから大丈夫だよ?いいの?本当にいいの??えへへへへ」

とナナが勢い良く聞く。

本気で断る気の無い確認の嵐を聞き流し、PC作業に区切りをつけ立ち上がるLに、ナナは嬉しそうに抱きついた。


「さてと。では登ってください。」

「えっ?」

脚立を持って訪れた、ナナの部屋。

「Lがやってくれるんじゃないの?」

「この脚立は高すぎて私には逆に危険です。脚立を支えててあげますので。」



(なーんか企みを感じなくもないけど。)

そう思いながらも、言い出したLは聞かないだろうと仕方なくナナが脚立に登る。

「よし!任せろ!」

「その調子です。」

(何か違う気がする…!)

胸中に微かな疑問を抱きながら、ナナは電球を交換する手を伸ばした。

その時。

「下からというのもなかなかいい光景です。」

「へ?」

ナナが振り向けば、覗き込むように太ももあたりを凝視しているLが目に入った。

「ちょっ!何考えてっ…きゃああっ」

動揺がもろに脚立に伝わりガタガタとバランスを崩しかける。

(分かった…!)

Lの不真面目な狙いが。

恐らく動揺からバランスを崩し、抱き付かれるのを狙っていると気付いたナナは、

Lの狙い通りうっかり転ぶなんてことがないようにやりきると強く意思を固め、体制を整えなおす。

足への視線は気になるところではあるものの、集中して一気に電球を交換する。

「よし!出来た!」

思惑通りにいかなかっただろう!とちょっと得意げになりながらナナはLに視線を送り、脚立から降りる。

その時、油断が現れ片足が見事に滑り落ちた。

「あっ」

「ほら。」

ガターン、と音を鳴らし脚立が倒れる。



危うく足を挫くかと思われたが、Lに腕と脇を支えられどうにかナナは転ばずにいた。

白いTシャツが視界を埋め尽くし、ふわっと香ったLの香り。

香り、なんてはっきりしたものではない。
無臭ではないのに、しかし無臭に限りなく近い。
それなのに確かにLだと分かる…名付けるなら安心の香り。

「私がここにいて正解だったでしょう?」


「…はい。」

ナナはドキドキして静かに頷く。

「そうやって時々敬語になるのが男心をくすぐります。計算ですか?」

ナナは無言で軽くLを叩くと、少し離れた。

(そんな訳ないでしょ!)

「なっ何はともあれ交換は終わりました!ご協力ありがとうございますっ」

恥ずかしさを隠してまくし立てるように言えば、

「また敬語ですね。照れている証拠です。」

Lは更に調子に乗る。

「もう!まぁ…とにかく、助かったことは助かったので、ケーキでも用意しま…するよ。」

一生懸命敬語を排除して返事をするナナ。

「そうですね、せっかくナナの部屋まで来ましたし。」

「え…ここで食べるの?」

「勿論です。」

「…」
「…」

ナナはしばし考える。

まぁ…たまには…それもいいか!

「じゃ、待ってて!

あ!でも廊下で待ってて!」

そう言うが早いかナナは世界の切り札を自室前の廊下に立たせ、部屋に鍵をかけた。

「どういう意味ですか。」

「L色々覗いたりしそうだから。」

「失礼ですね、私、疑われてるんでしょうか。」

Lは指を咥え少し拗ねるように表現してみるも、ナナは揺らがずに

「いいから!ここで待っててもらいます!」

と告げ、廊下をパタパタと走り去って行く。


(…入る気になれば、)


離れていく足音にLは、


(いつでもこのドアを開けられるのに。)


そう思いながらナナの後ろ姿を愛しげに見つめたのだった。


*end*
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