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どうせいつか、死ぬとしても。


波状雲が空に広がって、何だか不安げな夕方。

庭で遊ぶ子ども達を夕飯に促し、帰る途中でメロと一緒になった。

「っくし!」

横で鼻を押さえたメロがくしゃみをする。

「風邪?汗かいてるんだから早く着替えなよ〜」

今日は子ども達相手にサッカーをしていた。随分と夢中になっていて、何か嫌なことでもあったのかと心配になるほどだった。

あー、と分かっているのかいないのか
、適当な返事をしたメロの足取りはやはり少しだけ重い。
ゆっくり歩くことを意識しないと、私の方が早くなってしまう。

「先行けよ」

突然メロが呟いた。

「何?待つよ」

妙な気持ちに駆られて、すぐに言葉を返す。

「お前の心配なんて余計なお世話なんだよ」

投げやりに吐き出す言葉の隅々が私を試している。不安定なメロを見ると、泣き出したくなる。

「余計なお世話でも心配するもんねっ」

私の気持ちなどどうでもいい。目の前で世界に押しつぶされそうになるメロを放っておくことはできない。例え、拒絶されたとしても。

なるべく明るく、なるべく気にしていない様子で言い返すと、メロが観念して本題に差し掛かった。

「どうせいつか死ぬ。その時に納得いくよう俺は俺の好きなようにやる」

「それが汗びっしょりになって風邪ひくってことなの?」

挑発するようにため息をつき向かい合うと、メロは苛立った様子を見せた。

「違う。ナナに余計な心配をされる筋合いはないと言ってるんだ」

敏感になったメロは割れたガラスのように儚く、うっかり触れれば怪我をしそうなほどに鋭い。

「どうせいつか死ぬとしても、長く生きた方がより多くのことができるでしょ」

タオルの両端を持って、メロの首に引っ掛ける。睨まれたままだけど、それでも絶対譲らないから。

「こんな気持ちになることがメロのやりたいことなの?」

ふと自信がなくなって、ぽろりと呟いてしまった。
こんなにも救えない気持ちになることが、メロの人生なの?

そんなの。


メロの視線が下がり、肩にこつりと額が落ちてきた。よろけながらメロを支えると、風邪気味どころかはっきりと発熱しているのが分かった。

「メロ、熱…ごめん、気がつかなくて」
「悪い」

短く呟いた言葉は、体調をごまかしたことを詫びている訳ではないと思った。

だけど気がつかないふりをしよう。暗くなってきて時計の時刻ももう読み取れない。
けれど、夕方だってことは分かる。
寂しいなってことも分かるの。

それにどうにかなるよ、ってことも。

「帰ろう」

できるだけそっとメロの背中に手を添えて。
私は心から呟いた。


どうせいつか、死ぬとしても
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