恋物語
まるで ちいさな パパとママナニーが放ったつぶやき。それは魔法のように私たちを包み込んで、瞬時に世界を変えてしまうものだった。
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クリスマスの近い、うんと寒い日。
赤ちゃんがハウスにやってきた。門の前に、ゆりかごごと置かれていた小さな宝物。クリスマスプレゼントのように舞い込んだ、不幸な純真。
見つけたのは私。
大丈夫。鼻の先を赤く染めた赤ちゃんに語りかけて、私はゆりかごの持ち手を取る。
大丈夫、大丈夫。ここには仲間が沢山いるから。
「ナナ、それ……」
「赤ちゃん」
庭から戻ろうとしていたメロが私の手元を覗き込んで目を見開く。いつも自慢げにぺらぺらとよく話すくせに、言葉を失って、歯痒そうに不満を露わにするメロのことが好きだ。赤ちゃんの身を案じ、この世の不条理に抗うメロのことが、誰よりも。
二人で赤ちゃんを運ぶ。
極力揺らさないように。
互いを慰め合うように。
もう二度と同じような子が、現れないように心を込めて。
暖炉の前は暖かだった。
ナニーとハウスの人たちがばたばたと赤ちゃんを迎える支度をしている間、私たちは小さな宝物を預かる大役を仰せつかった。
メロは早く部屋へ戻りたそうだったけれど、結局私一人では心配だからと隣にいてくれた。
私たちは冬の子。寒さの中に凛と立つ子。
本当の暖かさを知らない。憧れの熱に我が身を溶かしながら生きている、いつかの不幸な純真。
ソファーに身を任せて、私たちに身を任せる赤ちゃんを見つめる。そうしたら、ナニーが言った声が聞こえたの。まるで小さなパパとママって。
ちっとも嬉しくなんてなかった。普通の子だったら背伸び気分で喜んだのかもしれないけれど、生憎、私たちは普通じゃない。
けれどその台詞は罪深いことに、私とメロを飲み込むように包み込んで、二人の距離を変えてしまった。
赤ちゃんを支える下で、私とメロの温度に満ちた手と手が触れ合っていること。
覗き込むように寄せた体は、肩がぴたりと吸い付いていること。
振り向けばキスを交わすこともできそうなくらいの僅かな隙間。
そのことに気がついた時、メロが何気ない風を装って口を開いた。
「パパとママみたい、かな」
私は「さあ」と曖昧に受け流すのが精一杯。
背後ではシーツを抱えたナニーが部屋を後にする。
その時。
もぞもぞとソファーの上で服がこすれるような音がして、それと共に右の頬をメロに奪われた。柔らかなメロの唇が、私の頬にその熱を移して、離れていく。
控えめな一連の動作はさりげなくて、誰も、この事態には気がついていなかった。
「パパとママみたい、かな」
横を向けないでいると、メロがまた同じことを言った。
胸が早鐘を打つように鳴っている。
私たちは冬の子。かつての不幸な純真。今日を境にきっと、何かが変わる。
「さあ」
今度は私が、何気ない風を装って答えていた。
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