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力が強いこと
 弱い奴や能のない奴は、“協力”するのが好きだ。
 判断に自信がない奴も、博愛主義の偽善者も、責任の所在を曖昧にしたがる奴らも、揃って皆そうだ。だから自分には、“協力”という言葉が心底性に合わない。
 行為を推奨する声に含まれる、譲り合い、手を取って助け合うことを賛美する雰囲気が薄ら寒くてぞっとする。
 “協力”なんて、自らの価値を落とすだけ。どんなに苦労して得た手柄も薄まって、結果は「自分のもの」ではなく「皆のもの」になる。連帯感に酔い、協働に高揚するならいざ知らず。そんなのはまっぴら御免で、俺は「自分の」力でやりたい。自分が切り開いた道を示して認めさせたい。そうでなければ、意味も価値もないと信じて生きてきた。

 協力よりずっと、利用の方がいい。
 誰かに搾取されることがない。主導権は常にこちらにあり、責任も結果もすべて自分のものとなる。
 ロッドも口先で協力を謳いながら、俺を利用した。俺がそうしているのと同じ理屈だ。それでいい。マフィアのボスは話が早くて、悪くなかった。

 一歩ずつSPKへと近付く捜査員。大柄な背中が着々と離れていくのを確認して、視線を下げる。右手に持った携帯電話を開くと、画面に一瞬、自分の姿が反射して映った。目に見えるものはすぐに形を変える。それでも、内側に根付いた感情はそう簡単には変わらない。

 あの日。
 ロジャーは「二人で力を合わせて」と言った。気まずそうな顔で机に肘をついて、至極言いづらそうに。白と黒がグレーにはならないことを、分かっていて言ったのだ。自分では判断がつかなくて、責任の所在を曖昧にして。どんな神経をしているのかと耳を疑った。
 「そうだね」と答えたニアの神経も信じがたかった。これまでにそうできるだけの関係性が構築されてきたと思うのか? 二番手として一番を支えるなんて、そんな立場に俺が頭を縦に振ると?

 ――あの時は、本当にそう思ったんだよ。

 携帯電話のボタンを押す。今度はこちらが神経を疑われる番かもしれない。
 ロジャーは面倒ごとの解決に胸を撫で下ろすだろうか。それよりもきっと、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるのだろう。子ども嫌いの冷静な推察はごもっともで、メロは状況に適応し丸くなったなどと言われるのは筋違いだ。俺はいつだって自分と、自分の認めるものしか信じない。
 世の中の沢山のものに失望させられてきた。キラを死刑台に送ると言ったあのLでさえも、時に矛盾を見せる。それでも俺は、矛盾を都合良く許容して無理な折り合いをつけたりはしない。自分の信心に嘘を言い聞かせ、行く末の判断にも迷うような、責任を放棄した人間にはならない。
 
 携帯電話を耳に当て、発信を待つ。
 今の自分は、決してニアの手駒などではない。あいつに“協力”する気は毛頭ないし、俺のスタンスはこれまで通り。何の矛盾も生じてはいない。

 呼び出し音がなる。
 これから行う通話で得られる情報は、俺が仕組んで俺が受け取るもの。日本の捜査本部を揺さぶる為のもの。成果はニアにもくれてやるが、一番手を支えるつもりはない。

 だから例え、この行動で何かを得ようとも。

 決して自分の価値が二分の一に薄れたりはしない。
 勿論、手を取り合って混ざり合って、一つになったりすることもあり得ない。
 俺たちは俺たちのままだ。
 ニアとは一生、相容れない。
 ただ、一に満たない奴が二人いたら、一を超える結果を出せるかもしれない。その可能性に、自己を賭けているだけ。

 呼び出し音が途切れて、ハルの応答が聞こえる。俺はあいつの名を呼ぶ。事態が、動き出す。

 ――利用か、協力か。それとももっと違う何かか。この行動にあてがう言葉など、今はどうでもいい。
 それを考えるのは全て事が済んだ、いつかその時に。
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