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遊園地
「やめろよ!!」

 移動遊園地が来たんだ。素晴らしい規模の。
 見上げた観覧車、煌びやかな電飾。カートにコースター、お化け屋敷。ポップコーンやクレープ。風船。色刺激は邪魔になるだけだと思っていた価値観を覆されるような、圧倒的な色彩。
 あんなに華やかなものは見たことがなかったから、子ども心に興奮した。メロもそうだと思っていたから、あの時のことはよく覚えている。

「え?」
「万一に備えろよ、馬鹿」

 トロッココースターに乗った時だ。気が逸って、握った安全バーを前後に揺らした俺に、メロは金切り声を上げたのだ。そのあとになって誤魔化すように悪態をつくメロの目は明らかに動揺を隠せておらず、その動揺はこちらにもうつった。

「……恐いの?」

 まだ友達になったばかりだったんだ。だから、思わず噴き出しそうになるのを堪えて俺は慎重に聞いた。メロは自分なんかより賢い子だと分かっていたし、活発で好戦的だとも分かってた。そして自信家だとも、思っていたから。

「は? ヒューマン・エラーはいついかなる時にも起こり得る」

 心外だと目を見開いたメロは最もそうな口振りでそう言うと、前方に視線を投げ、呆れた風な素振りをしてみせる。俺はばつが悪くなって視線を下げる。それで、この話はもう二度としないって決めた。

*

 時間にそぐわない音がするから、何をしているかよく分かった。メロの部屋では、主人を失うカウントダウンが始まっている。

*

「Lになろうかな」

 わざと言ったんだよ。茹だるように暑い日の気まぐれ。
 メロは予想通り目を見開いて、あの時みたいに「は!?」と声をあげた。面倒なことにならないようすぐに続ける。

「Lの財力を得て、俺はアイスクリームワゴンを買う」

 反応がないので、顔だけをメロの方に向ける。メロは口を開けたまま固まっていたけど、一拍置いたのち、「アイスクリームワゴンは」と切り出す。
「今でも、お前ならいつでも買える」
 そう言ってメロはくしゃりと笑う。問題なのは、置き場所だけだと。

 「普通」の子どもだったなら、ヒーローに憧れるのかもしれない。だけど自分たちは「普通」じゃなかったから。俺は憧れたよ。「普通」の友達。
 ――――メロ。


 雨に打たれて進むメロの後ろ姿を、夢破れた者の背中を、誰一人として見ていないことを祈る。
 強がりだとか、身勝手だとか、無鉄砲だとか言う奴はただの一人も見てくれるな。

 俺だって見てないよ、メロ。お前は誰にも気が付かれず、このハウスから出て行ったんだ。
 あの日、レバーをきつく握りしめて震えていた手を見てしまった時と同じように。

 きっとこのことも、すぐに忘れるから。
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