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世界が静かにひっくり返った日
目の前の鉄棒のところにいる、赤いワンピースを着たツインテールのあの子のこと、可愛いと思う。

というのも僕は移り気な性分で、ちなみに言うと隣にいる紫メガネの子もクールでいいなと思うし、その更に隣で楽しそうにしている笑顔の似合う女の子のこともキュートだななんて思っている。

化学を専門に教えに来る美人先生はインテリな雰囲気なのにとても胸が大きくて、スーツのボタンがきつそうなのが僕をいてもたってもいられなくするし、

仕事の合間に優しいシッターが僕のことをぎゅって抱きしめてくれると胸がいっぱいになって幸せな気持ちになる。

つまり僕としてはそこらへんにいるみんながそれなりに好みな訳。お得でしょ?

だからといって、

話しかける勇気もないし、仲良くするのも面倒そうだから見てるだけ。それだけでいいんだ。だって人間対人間だよ?僕一人だって胸の内はこんななのに、誰かと対峙するなんて面倒じゃない?
これくらいの距離がちょうどいいよ。

手元でゲームをやりながら、目の前の3人のうち誰かが鉄棒を回って、スカートの中が見えたりしないかなーと期待するくらいが、それくらいがちょうどいいの。

昼休みが終わって、ぞろぞろとみんなが玄関に集まる。
こんな時も玄関階段の近くに座って、気にしないフリをしながらみんなのことを観察してる。

興味がない訳ではないけど、アクションを起こして関わり合いになるのは億劫。
結局のところ、僕は他人なんてどうでもいいってどこかで思っているのかもね。

赤ワンピースにツインテールの彼女が僕の横に来た時、避ければいいだけなのに「じゃーまー!」と言った。
紫メガネの子は「ここで何してるのよ」と呆れたような顔をした。
女の子って、可愛いんだけどこういうところがあるんだよな。大人しいから何も思ってないって訳じゃないのにさ。

しかしそれも僕にはどうだっていいわけ。あの子達と仲良くなりたい訳ではないからね。だからみんながいなくなった中庭が、今日も広くて心地いいのを見届けたら教室に戻ろうかな、なんて別のこと、呑気に考えていたんだけど。

最後に来た笑顔の似合う彼女が「これ、使って?」とハンカチを差し出してきたから咄嗟のことについドギマギしてしまった。いや、いや。これ、受け取っていいのかな。迷いながら結局受け取る。こんな時どう応えていいか、実は知らないんだ。恥ずかしいけれど。

「あなたのゴーグル、砂埃ついてる」

覗き込まれて思わず顔を背けてしまった。
笑顔ちゃんは気に留めず、立ち止まった足を進め始める。

応え方を知らない僕だけど、振り向いて何とか慌てて言った。声を出したのなんて、いつぶりだったかな。

「オレ、マット!」

自分のことを初めてオレって呼んだ。ちょっとカッコいいでしょ?

「私、ナナ!またねっ」

声を出した僕の方を振り向いて、更ににこっと微笑んだ笑顔ちゃん改めナナちゃんは、ひらひらと手を振ると階段の上で待っている友達の元へ急いだ。


*


それからというもの、僕の中では大きな変化が一つあった。

一つだから、他のほとんどのことは変化なしだよ。
相変わらずそこらへんを歩く女の子たちを観察してしまうし、やっぱり化学の先生の胸元は猛烈に気になる。

だけど

あの日からナナちゃんだけ。

飛び抜けて一番可愛いって、思うようになったんだ。


世界が静かに
ひっくり返った日
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