home's_16 | ナノ
すきだ、ということ。
制限時間は15分。

ブラインドを半分下げる。涼しくなってきたとはいえ、日差しはまだ強い。
タオルを1枚、濡らしておく。きっと汗をかいているだろうから。

窓は全開に開け放つ。
一番暑い時は過ぎたから、心地よい風がちょうどよく室内を抜けていくだろう。

何よりもwelcomeな気分が、そう後押しする。
左右に広げた窓は、自分の胸とまるで同じだ。
情けないくらい大きく開いて、客人の到着を心待ちにしている。

昨夜淹れて一晩寝かせたきんきんのアイスティーはスタンバイ・オーケー。

先ほどシャワーを浴びた浴室の、床の水滴も拭いておこう。
ナナがシャワーを浴びたいと言い出しても、すぐに通せるように。


一通り最終確認を終えたら、椅子に座って扇風機の風を浴びる。
揺れた髪から汗がにおったりしないか確認。

時計を見るとまだあと5分ある。

思いつく限りのことはやりつくした。

安心感と同時に沸き起こる焦燥感。
いい加減こんなに気合いを入れては長続きしないと思う。

けれども電話越しにあの声を聞いてしまうとつい張り切ってしまうのだ。


「じゃあメロ、今から向かうねっ!」


見なくても分かる、はつらつとした明るい笑顔。
終話ボタンを押した後、ナナはどんな気持ちで自転車をこぎ始めるのだろう。


自分と同じように楽しみでいてくれるといい。
待ちきれない気持ちで、こちらへまっすぐに来てくれるといい。


そんなことを考える5分は、穏やかでありながらあっという間に過ぎる。


ぼうっとした頭に呼び鈴が爽やかに響いて、弾けるように立ち上がってしまった。


今の滑稽な姿を誰にも見られていないことに感謝しながら、つい苦笑した。


すきだ、ということ。


到着予想時刻は10分後。
だから…

「あと15分くらい!じゃあメロ、今から向かうねっ!」

終話ボタンを押したら、暗くなった画面にへらへらした自分の顔が映って恥ずかしくなった。


暑さも和らいできたから、ちょっと近くのお花屋さんへ自転車に乗って行ってきた。
メロの部屋にお花をいくつか見繕って、持っていくの。

風が当たり過ぎないよう、十分にハンカチで覆って、さあ出発!!


今日はこの間買ったワンピースを初めて着ていく。
レディーらしからぬ勢いでスカートの裾を揺らしている姿は、メロには絶対見せられない!
けど、今は周りに誰もいないしご愛嬌ってことで。

裾を巻き込まないようサドルに敷いて座ったから、立ちこぎしたい気持ちは我慢我慢。

熱心にこぐとやっぱり汗ばんじゃうな。鼻の上とおでこを軽くぬぐう。
ううー汗、引っ込め引っ込め。

とんぼがつがいになって飛んでいるのとすれ違う。ひゅー!アツアツ!
でも私だって、今から最高に幸せな時間なのだ!


予想通りぴったり10分で到着。
でも着いたことはバレないように、そっとそっと自転車を停める。

目立たない日陰でクールダウンして、ボトルのお茶を一口飲んで。

それから汗拭きシートで首筋をぬぐう。襟元をつまんでくんくん。大丈夫!ほんのりフローラル。

お花を持って玄関へ向かいながら、空いている方の手で顔を仰ぐ。
なかなか冷めないのは、楽しみすぎて気合いが入っちゃってるからかな?


「よし!」


ほっぺに手を添えて気合を入れたら、いよいよ呼び鈴へ手を伸ばす。

一番ドキドキの瞬間。

チャイムが聞こえたら、メロはどんな表情になるのかな。
逸る気持ちで一目散に玄関へ向かってくれてたりしたらいいのにな。


…メロはそんな慌てたりしないかぁ。


想像の中のキュートなメロを想うと、自然に頬が緩んでしまう。


ドアスコープにへらへらした顔が映ってしまわないように、少し俯いてその時を待った。


すきだ、ということ。
PREVTOPNEXT

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -