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試されているのは、
白衣の集団を部屋に通して本部に戻り、ため息をつくとリドナーが気遣ってくれた。

「嫌なものね」
「ええ」

切り替えるようにコーヒーを注いで一人一人に配る。けれどもそう簡単に、心は落ち着かない。

「ニアもうんざりするって言ってました」
「…当然です」

今回はポーションミルクを遠慮したジェバンニの共感が力強く、やはり同志だと改めて感じる。

「事件解決を"L"に任せきっておいて…皮肉なものだな」
レスター指揮官の言葉に一同が頷いた。

キラ事件が解決を見せてから、数年が経とうとしている。
世間は既に当時の異様な世界の有り様を忘れ、平和と言えるか否か…事件が起こる前と同じ日常が繰り返されているというのに。
あの時から定期的に、国の要請でニアは数々の精神分析を繰り返し受けさせられている。

"犯人と同じ思考回路を持ち合わせていないか"のチェックなんだそうだ。

とってつけた言い訳をいくらでも用意して、要するにニアを監視・管理の元に置きたがっているのだ。

けれど私たちはそれに抗うニアの気持ちを感じ取っていた。


**


以前、とある回で「事件前と後で検査結果に大きな変化は見られない」と分析されたのを知り、安堵して本人に報告した時のことだ。

「愚かです。テストを受けるこちらが心得を持っていればいくらでも調整可能なことに気が付いていない」

ニアはいつものように髪をくるくる指に巻き付けながらけだるそうにそう言った。

「…というと?」

「ロールシャッハテストに初めて接したのは10歳にも満たない時でしたが、当時の自分の回答を…というか全ての回答を記憶しています」

「すごい」

「私にとっては普通です。警戒した初回の記憶は特に鮮明ですから。ちょうど学びたてであったので心理士がどのような反応を示すかの方が楽しみでした」

ボスながら嫌な子どもだなーと思って聞いていると、「今嫌な子どもだとか思ったでしょう」と見抜かれ慌てて否定することとなった。

「全く同じ回答だと芸がないので、異端者とされない程度に微調整して答えるのがコツです」
「そんなことできるんですね…」
「専門家はこちらが回答を考えている"間"とか、答えに至る思考の関連事項についても噛み砕きますから。アカデミー賞ものの演技で決めてますよ」
「ふっ」

全然愉快な事態じゃないのに、あの時はニアから飛び出した珍しいジョークについつい噴き出してしまった。


今日、検査の為の待機場所へ案内し、例の白衣集団を待っている時、ニアはまたニアらしからぬことを口走った。

「彼らを少し驚かせてやりましょう」
「というと?」
「まったく面白みのない常人だと思わせて検査頻度を下げさせます」
「できるんですか…!?」
「どう分析されたか、ナナさんまた秘密の報告お待ちしてます。…来ましたね」
「はい!今お連れしますね」


**


あの時のやりとりをぼうっと思い返しながら待っていると、着信が入った。
てっきり検査終了の迎え要請であろうと対応したところ、何のことか私だけで検査担当者の元へ来るように、との呼び出しだ。
ニアの悪戯な計画はどうなったのか、いつもとは違う流れに期待と緊張を含んで電話を切る。


検査担当者たちが待機する部屋へ入ると奥に三人の若い男女が立ち、椅子には彼らと同じく白衣を着た恐らく心理士の女性が座っていた。

「あなたはナナさんね」
「はい」
「検査に関するLのスケジュールの調整はあなたがしてくれていると…これまでの協力に感謝します。
今回の結果は持ち帰って更に分析するけれど…今日の感じから、今後はもう少し検査頻度を下げていこうと考えています」
「……!…はい」

内心ニアの思惑通りであることに愉快になる。
言っていた通りだ!さすが我がボス。

しかし私は、興味をこらえきれず後から思えば余計な質問をしてしまった。

「Lに、何か変化が?」

面白い分析結果が出てきたらニアに報告しなくちゃ。ボスはそれを楽しみにしていた。
その時はシンプルにそう思っただけなのに。

「彼、以前まで人間に対する興味が非常に希薄だったのだけど、今回は人への前向きな興味がやや表れ出していたの。ごく一般的な成人男性の反応に近かった。年頃の青年らしい、人への愛着・恋愛に対する興味のようなものも出てきたんじゃないかって。
これは今までの結果と比べて犯罪傾向への結びつきを浅くしたとも言える」

「…はあ…」

普段のニアから想像もつかない、全くでたらめな分析に神妙な面持ちを保って相槌を打つ。
長らくニアを観察し続けた心理士の女性は妙に興奮した口調を緩めずに続ける。

「非常に密接な関係者の中にもしかしたら彼が恋愛感情を抱くような対象がいるのかもしれません」
「…そう、ですか」

的外れな推論に戸惑っている私を、彼女は含みを持って覗きこむ。

「ええ、だから今一度あなたの顔を見たくなって」

(??)

どういう意味か。

いや意図するところは分かるけれど、これには非常に参った。

白衣の集団が、にこやかにこちらを見ていたことの合致がいったと共に、猛烈に居心地が悪くなる。

「そう、ですか。私には詳しいことは理解し得ませんが…また必要があればご連絡ください」
「ええ、では私たちは行きましょう」

努めて冷静を装い話を収束させたものの、若い三人が興味深そうに私をじろじろ見るのでボスは一体何を言ったのか、問い詰めたい気分になった。

彼らのあからさまな反応。
ニアは自分を正常な成人男性と認識させることに飽き足らず、私に繋がるような発言をしたに違いない。


**


屋外の様子を見つめながら、私は苦手科目の試験前のように混乱していた。


ニアは、自分の意志で回答をいくらでもコントロールできる。

だから今回も検査頻度を下げることに成功した。

だから、今回の回答だって彼のお遊び・実験の一つのはず。


「じゃあ何で、この内容をわざわざ私に報告させたがるのよ」


期待しそうな胸を抑えて。
この結果をどう報告したものか…白衣集団の車を見送りながら、まったく途方にくれてしまうのだった。


試されているのは、
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