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テストでてすと。
(皆さん、ニア様に拾われただけの私にもご親切にしてくださって、本当に優しい…!)

ひょんなことからニアの元で下働きをしている少女・ナナは、元SPKの3人に対し、憧れと尊敬の念を抱いていた。
だから信頼できる大人3人を前に、素直に質問してみることにしたのだ。

「ろーる、しゃっは?」
「ロールシャッハ、人格分析の一種です」
リドナーの艶やかな唇から返される言葉を幼いナナはドキドキしながら受け止める。

「左右対称に滲んだインクの図柄を見て何に見えるかって、見たことありませんか?
最近ではサイコパス診断なんて、ウェブ上に簡易的なものが載っていたりしますが」
「ああ!」
ジェバンニの説明は解りやすく、ナナも想像がついたようだ。

「事件を解決する頭脳は、ある意味犯人の計画の上をいっているとも言える。
危険な兆候がないか、ニアは研究・監視の対象になっているんだろう」
「危険な兆候…とは?」
レスター指揮官にナナは質問を重ねる。

「事件後に以前と変わった様子がないか、など」
「ああ!」

幼い少女のひらめいた様子に、一同が興味を示す。

「ナナさん、何か思い当ることが…」

三人の真剣な目に見つめられ、若干の緊張を見せたナナは、気丈に、努めて正直に答えた。

「はい、ニア様以前より少しだけ優しくなりました。私のこと撫でてみたりするんです。前はどんなに頼んでも絶対一緒に寝てくれなかったのに、最近はベッドにもぐりこんでも私を追い出さないんです!た、たまに」

自分で話していてもかぁぁと顔を赤く染めているナナは、正確に伝えなくてはと振り絞って続けた。

「て…手…手を、繋いでくださったりも、するんです!」

ひゃぁっと小さな悲鳴を上げナナが両手で顔を覆うと、彼女の頭上で顔を見合わせた三人が口々に言葉を重ねた。

「ああナナさんそれは…」
「えーっと、そうね」
「あまり他人には話さない方が良いかもしれません」


**


ナナは三人から聞き出し、診断の結果について何かしらの手掛かりが得られるかもしれないとロジャーの部屋前に来ていた。
ドアにすり寄りこっそり聞き耳を立てていると、本当に声が聞こえ、小さな胸の内側が激しく高鳴っていく。

「我々を馬鹿にしているとしか思えません」

一体どんな結果が出たのか…検査を担当した医師の憤慨した様子に疑問を感じながら、ナナは気配を消してドアに耳を押し当てる。

「何のカードを見せても答えは「ナナに見えます」の一点張り。とても真面目に答えているようには」
「ナナはニアの世話を担当している少女です」
「そんなことはどうだっていいんです、とにかく彼自身に取り組む姿勢がないのなら分析のしようがない」

(ナナ?わたし??)

ナナが不思議に思いながら聞いていると、ロジャーの聞いたことのない厳しい声が響いた。

「分析をしてくれと、頼んだ覚えはないんだがね」

空気の固まった様子。ワンテンポ遅れて医師が捨て台詞を吐く。

「ええ、彼はもうすでにイカれているのかもしれ…

「何をしているんですか?」

その時だ。ナナは突然別方向から聞こえてきた声にびくっ!と大きく反応して、少しばかり部屋のドアを蹴ってしまった。

後ろ襟を軽く握られた感触に、ナナが恐る恐る振り返ると、そこには冷たい視線で彼女を見下ろすニアの姿があった。
盗み聞きに呆れているのか、テストに疲れているのか、どのみちこの上なく面倒そうな顔をしている。

「ひいいいいあの、その」

ナナが必死に言い訳を考えていると、音を察知して中から「誰かいるのか?」と声が上がる。

「…来なさい」「ひえええええ」

ニアは低く厳しいトーンでそう告げると、大焦りでもがくナナを引き連れて踵を返したのだった。


**


「あ、あの、ニア様ろーるしゃっはのテスト、全部私に見えたって」
「はい、見えました」

椅子に掛けるニアの前でしゃん!と真っすぐの姿勢を保ちつつ、所在なさげに前縛りしたエプロンの紐をぐるぐるねじりながら聞いたナナは、ニアの返事に困惑する。

「でもあれって、たしかドクロに見えたりするインクのカードもありましたよね?」
「…あなたドクロに見えるんですか。そちらの方が興味深いです…が今は置いておきましょう」

ニアはナナをちらりと見て、髪をねじった。

「お医者さん怒ってました。ニア様はやる気がないって」
「放っておきましょう、分析力がないんです」
「そうなのでしょうか?」

敬愛するニアは勿論のこと、医師の専門性だって大いに信じているナナは素直な視線をニアに向け、頭を傾げてみせる。
ナナのきらきらした視線を避け、ニアはさりげなく顔を背ける。

「ええ、普通はこう読み解きませんか?”ナナで頭が一杯なのだ”と」

彼がそっぽを向いたのは、付け加えて言うからかいついでの本音をごまかしたい気持ちが…なきにしもあらず。

すぐにはニアの言葉を噛み砕けないナナはゆっくりと復唱する。

「…ナナで…あたまが」

数秒、沈黙が流れた後。

「へっ!?」

言葉を理解したナナが、ぼっと音がなるようにたちまち赤くなる。

想像通りの反応に抱きしめたい衝動を抑えて、ニアはナナへ近づく。
彼もまた、静かな混乱の中にいる。これはいわゆる、ぬいぐるみやロボットへの愛着行動と変わらないことだ、などと無駄に言い訳しながら。

「意味、分かります?」

「わ、わわわわ…っ」

ナナの焦る様子と潤んだ瞳。
思いがけず微かに頬を緩めてしまったニアは、優しくナナの頭上へ手を伸ばす。

「好きに解釈してください」

「そ、それって……」

いつものように撫でてもらえると思ったナナが目を瞑ると、彼女の頬に予想に反した感触が走った。

「しかし私のことを幼児趣味の変態かのように吹聴するのはやめてください分かりましたか?」
「いひぇひぇひぇ何のことですかーー!?」

二人の想いが正しく通じ合うのは、まだもう少し、先の話。


テストでてすと。

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