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年下彼氏の憂鬱2
今日はゆっくりできると思っていた矢先、内線が鳴ってもう完全に慣れっこになりつつある頭が「またか…」と嘆いた。
受話器を取ればほら、予想通り。王様からのお電話だ。

「ナナ、Lの部屋までお願いします」

二人で新しい事件について捜査を始めたところだ。片づけ下手が部屋の中に約2名。
そこで私の出番という訳なのは容易に想像がつく。

「いつ?」
「今です」
「えっ突然…!まだ身支度済んでないから行くまで少し時間かかるよ?」
「身支度など必要ありません」
「…ニアじゃないんだから。私には必要なの」

言い返すと少しばかり黙った受話器の向こうから「できるだけ早くしてください」とまったく自分勝手な声が聞こえて、通話が途切れた。

「うわ!わがまま!命令口調!私は部下じゃないっていうの!」

せっかくの休日をあっさり奪われた私は文句をひとしきり吐き出してから、身支度を始めた。


**


…まぁ、確かに。

床に散乱した大量の資料、しっちゃかめっちゃかのディスク群、山積みになっている書類、重なったお皿とLが一人で何本も出したフォーク、ニアが作りかけてはひらめきと共に放置したおもちゃ…

見紛うことのない"私の必要な事態"に、もはや笑ってしまいそうだった。

ここまで散らかっているのをみたら諦めがついた。段々燃えてきて、真剣にモニターを眺めるニアの役に少しでも立てるなら…と早速片付けに勤しむ。

それぞれのディスクをケースに戻し、時系列順に並べる。ちぐはぐにキャップをはめられたUSBを色通りに組み合わせ、一旦デスクの上にスペースを作る。

不必要な書類はまとめて、ワタリに処分の確認をする為避けておく。
山積みの書類はこれから天才さんのペースで処理されるのだろうからノータッチを貫いて。

そこまで複雑な作業を必要としないから、みるみるうちに片付いて気持ちがいい。
三人の無言の時間が心地よく過ぎていく。

あとはどうやら、1冊を取り出す為の犠牲になったらしい、本棚の前に大量に落とされている本を戻すところのみ。

意気揚々と進めていくと、ぎりぎり手が届かない高さにしまってあった本が2冊だけ残った。
脚立を持ってくるのが少し面倒で、思いきり背伸びをしてどうにか届かないか試してみる。

途端、後ろ側から「ナナさん、物々交換しましょう」と聞こえ、顔だけで振り向くと、目の前に出された大きくて鮮やかな虹色をしたぺろぺろキャンディーで視界が埋まった。

「え」

と声を出すと同時にキャンディーが私の口に放り込まれたので、驚きつつも落とさないよう必死に唇で噛みしめる。

そうこうしているうちに、手元からひょいと本が奪われ、身体が軽くなる。

横に来たLがさっと本を受け取り、あるべき場所に本を差し込んでくれたのだ。

「あっL、ありがとうございますっ」

キャンディーを口から外し、Lに手伝ってもらったお礼を述べる。
捜査のお邪魔にならないことが何より重要なのに、と恐縮した気持ちになる。

それなのに、Lという人は。

「いえナナさん、気楽にやってください」

と言って微かに口角を上げたのだ!L!なんて優しい!!

よく知らない人が見れば決して”笑顔”とはカウントされないそれだけれど、Lが”笑顔と認識される表情”の為に僅かに表情筋を使ってくれたと思うとこんなに光栄なことはない。

「さすがL…!大人の余裕がある…!」
「?」
「ああ、いえ!何でもないです!」

思わず飛び出してしまった言葉を濁して、私もにこりと笑い返した。


**


翌日。

明日も作業があると言っていたから早くに支度したというのに、今日はニアから特に連絡がない。はて?と疑問に思って部屋まで行ったら、布団にもぐり込むニアを発見した。

「ニア〜起きて…きゃっ」

寝ていると思ったら起きてはいたらしい。突然掴まれた腕を引っ張られ、油断していた身体はあっさりとベッドの上へ倒れ込む。

「起きないの??」
「…寝ている時が一番楽です」

下側の頬をシーツに押し付けて少し歪んだ口元のニアがけだるそうにそう言った。

「体調悪いの?…そうねぇ、身体には安息が一番だもんね」

疲れてるのかな?と思い、ニアの背中に手を這わせる。柔らかく温かい温度が次第に手のひらに満ちてくる。
けれどもニアは私の手を払うように寝返りをうち「いいえ」と答えた。

「そうではありません、寝そべっている時はナナと目線も同じですし身長差も感じません」

「ん?そういうことかあ」

珍しいことを言うなと思っていると、ニアはなおも「ナナのことは誰よりも見てます」と呟き重ねて、後ろ手に指人形を渡してくる。

ワンピースにエプロンをかけた…私を模した指人形。

「わあ!似てる!!ほんと、すごくよく見てるんだねぇ〜!」

単純に嬉しくてそう喜ぶと、ニアは少しはっきりと返事する。

「はい…Lよりも」

「??」

「…高所作業のナナを手伝うことはできませんが」

言われた途端ピン!と来て、目の前の丸い背中が、昨日のことで拗ねているとようやく気付く。

「ちょ、別に手伝えなくたっていいよー」
「それに呼び出したのもわがままや命令ではありません。ナナにしか任せられないので…信頼の証です、昨日のは…」

何やらもごもご言い訳をしているのは、どうやら私が部屋で言っていた文句についてだ。全部筒抜けになってバレていたらしい。
慌てて背中にくっついて甘えてみせる。

「分かってるってば、気にしないで」
「どうせ私はおこちゃまなので、指人形を作ります」
「わー!ニアが卑屈になってる!やめてやめて、私は今のこのままのニアが大好きなんだよー」

思っていた以上に拗ねているニア、こんな姿初めて見たので慌ててフォローしまくる私。

自分の形をした指人形をニアの頬へ運び、ちゅっとキスさせる。

「暴君気味でもすき」
「ニアだけ大好き」
「機嫌なおして?」

ちゅ、ちゅ、ちゅ、と重ねて指人形にキスしてもらいながら、話しかけていると、ようやくニアがのっそりとこちらを向いてくれた。

でも上目に私を覗いたお顔は、まだ少しご機嫌ナナメ。
ニアってこんな甘えた顔するんだ…とちょっとばかりドキドキしてしまう。

「…実物でしてください」

そう腕を回されたら、もはや年下彼氏の術中からは抜け出せない。

「…もう、」

高鳴る胸を抑えて、私は顔を寄せたのだった。


年下彼氏の憂鬱2
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