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奇跡
窓から入る風が、カーテンと観葉植物の葉を揺らす午後2時。

室内が明るく照らされる昼下がり。

テーブルの上には、氷の音が響くアイスカフェオレ。

メロと過ごす、なんて事はない毎日。


チョコレートを一粒、口の中で溶かしたら、私はすっかり眩しすぎる幸福に恐れ入ってしまった。

「毎日が穏やかすぎて、」

続きを口にするのにはばかっていると気が付かないメロは、ソファでくつろいだまま「ん?」と適当に相槌を打つ。

「なんか、嘘なんじゃないかって思う時、ある」

まるで夢。

言った途端に消える。

気が付いた途端に醒める、夢。

「はは、嘘だったりしてな」

それなのに、全く聞きたくないタイプの返事を繰り出すメロ。

「え、やだ。それ、全然笑えない」

憤慨の声のちょっとした勢いに、メロがちらりとこちらを見たのが分かった。
卓上のチョコレートをもう一粒口に頬張って、自分でも滑稽と分かりつつ、にわかな抵抗を示さずにはいられなかった。我儘だ。我が、まま。

「嘘だったらやだもん。嘘じゃこまる」

バカバカしい、杞憂だって分かってもいるから、この胸の不安を押し込めてテーブルに伏せた。メロに見えないよう顔を背けて、むくれる。


だって私、一生このままがいい。


さっと立ち上がったメロが、ベンチソファを跨いで私の隣に入り込む。

「不安にさせたか?」

いいのに。ちゃんと分かってて、私が勝手にすねて困らせただけ。

けれどついつい甘えてしまう私は振り向いて、じとーっと可愛くない視線を送ってみる。

メロは噴き出しこそしないものの、「そんな目で見るなよ」と優しく笑って頭をなでてくれる。

何て気持ちいいんだろう。ああやっぱり、これが一生続いて欲しい。そう思うと、悲しくないのに涙が出てきてしまう。
嬉しさとも、悲しさとも違う。切なさの涙だ。大好きで、胸が苦しい。これが現実でなくちゃ、嫌なの。

「拗ねるなって。嘘でも幻でもないから、」

包み込むようになでてくれる大きな手を感じたくて目を瞑る。

「ずっとそばにいるよ」

頭も、心の中も、じんわりとメロの熱で温まっていく。

「本当?」
「…本当」

メロが頬にちゅ、とキスを落としてくれて、私はようやく安心する。

大丈夫。私たちは、嘘でも幻でもなく、本当に一緒にいる。

「寝るまでここでナナ見ーてよ」
「寝ないもん」

頬杖をついて私を見つめるメロと、恥ずかしさに手を伸ばしてメロの視線を妨害する私。

テーブルの上には、結露したアイスカフェオレのグラス。

室内がオレンジの色を増していく昼下がり。

窓から入る風が、カーテンと観葉植物の葉を揺らす午後。

メロと過ごす、なんて事はない毎日。

奇跡
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