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プロローグ・プロローグ
昼下がりのほどよい日差しの下、ナナは色とりどりの小花を摘んでは試行錯誤していた。
彼女はまだ幼い。どうにも不器用だ。それに、実のところ"それ"を行う方法を知らなかった。

"それ"というのは、いわゆる"あれ"だ。
ナナは顔をあげて向こうの方にいる集団を覗き見る。
皆、ナナと同じように傍らに小花を集め、一様に手元を注視している。
周囲と、そして彼女たちの頭の上に存在しているのは"花冠"。
ナナは"あれ"が欲しかった。正確に言えば、作れるようになりたかった。
他の誰かが作ったものでは事足りない。

しかし普段接点のない人物の集団へ、「作り方を教えて欲しい」とはなかなか言い出しにくい。
感覚でどうにかなるかと数度トライしてみたものの、どうも花冠をうまく作ることのできないナナは、羨ましいような恨めしいような気持ちで彼女たちの幸福な午後を眺めていた。

ふと、横で足音が聞こえたようだ。
振り向いたナナは驚いて「わっ」と小さく声を
漏らす。

「花冠、作ってるの?」

隣についたのはメロだった。ちょうど今日の日差しに照らされて、完璧なブロンドが光り輝いている。そのままの意味でも、精神的な意味でも、ナナにとって、彼は眩しかった。

「う、うん!そうなんだけど、私へたくそで恥ずかしいから、見ないで!」

「ぼ!僕、作れるよ!」

必死になって失敗の残骸を隠すナナを気にする様子はなく、言葉を重ねるようにしてメロはそう言った。

「え…?そうなの…?」

ナナは数秒の間戸惑いを見せたものの、メロが自分の拾い集めた小花を「使っていい?」と聞くので大人しく頷いた。

メロは真剣に、丁寧に小花を手に取っては茎を器用に編み始める。

鳥のさえずりと、暖かく明るい陽射しの中で、自分の摘み取った花がメロの手に取られていくのを見て、ナナはうっとりとする。これって、共同作業みたいだ、と。

「すごいねえ…私、実は作れるようになりたいんだけど、作り方、よく知らないの。えへへ」

嬉しくなったナナが、親切なメロへ本音を漏らすと、メロはハッとして振り向く。

「ならナナ、教えてあげるよ!ほら、」

「……うん!」

促されるままに花を受け取ると、メロとナナの手が僅かに触れる。
二人ともそんなことはなかったかのように振る舞って、花を受け渡す。

「まず×を作る。それからここを巻いて…」

「うん…うん…」

ナナは極力真剣に手元に集中することにした。何故ってうっかりすると、メロの横顔や透き通る毛先に目が行ってしまうからだ。丁寧に動かされるメロの手が傾くさま、耳に届く優しい声だけで、受け入れるには余りある幸福。

「それでこうすると…」
「…できた!!やったあ!!メロすごい!ありがとう!!」

嬉しさと感激でメロに尊敬の視線と、立て続けに言葉を送るナナに、「あ、まあ、こんなものいつでも…」と今度はメロの方が戸惑った。
ナナはメロの様子の変化に、ストレートな質問を投げかける。

「そういえば、メロはどうして花冠の作り方を知ってるの?」

質問を受けたメロは、みるみるうちに頬を染め、目をそらして先ほどまでの器用さが嘘のようにぎこちなく言葉を詰まらせてしまった。

「え…いや、その…」

しかしなお純粋な視線を投げかけ続けるナナに、抵抗できないメロは白状する。

「ナナ、花冠を作れるようになりたかったとは知らなくて…被りたいんだと思ってたんだ。だから、その…僕が作ってプレゼントしようと思って…」

真っ赤なメロが自分の作った花冠をそっと差し出す。
"それ"は、驚いて言葉の出ないでいるナナの頭上へと持ち上げられる。

「はい。ナナに、とっても似合うと思う」

「わ……」

かちこちに固まった身体、頭の上でメロの花冠を受け取ったナナは、息をのみ込んで自分も声を上げる。

「あっあのね、花冠、作りたかったのは、メロにあげたかったからなの!光がかかると、メロの綺麗な髪に輪がかかって、す、すてきだったから。花冠も同じように、似合うと…思って…」

自信なさそうに語尾を濁らせたナナは、上目にあげた視線で、目を丸くするメロを見つけてしまい、大変に恐縮する。

「けど、こんなの、おっ女の子の遊びだよねっ!ごめんね…」
「ううん」

メロの真剣な目に、ナナの愛想笑いが消える。

「ありがとう」


風に消されそうなくらい小さいのに、でもはっきり聞こえたその声に、ナナの表情は明るくなった。


*


昼下がりのほどよい日差しの下、ナナは色とりどりの小花を摘んでは試行錯誤していた。
彼女はまだ幼い。どうにも不器用だ。
けれども横には親切な友がいて、二人はお互いの為に、今日も花冠を増やしていくのだった。


プロローグ・プロローグ

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