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drive!
右に左に、流れる景色を追おうとついきょろきょろしてしまう。
メロの運転する車に乗るのなんて初めてだし、そもそも好きな人の車に乗るのも初めてでこういう時どう振る舞ったらいいのかがよく分からない。

だから、とりあえず景色に興味のある感じを出そうと周囲を見回してみている訳で。

そんな私を見てメロが言った。

「ナナ…そんなに漏れそうなのか…?」

「ちっ違うの!!」


**


改装して話題になっているサービスエリアに美味しい生チョコレートがあると聞きつけたメロが、一緒に買いに行こうとドライブデートに誘ってくれたのだ。

楽しみ半分不安半分、興奮して昨日はなかなか眠れなかった。

「メロ 運転」で検索したって、的確な答えなんて得られるわけもないけれど、一晩考え続けて、私の中でシミュレーションはばっちり済んでいる。

ちょっと運転が荒そうだから酔い止めはしっかり飲んできたし、うっかり危険なことがないよう脇道の飛び出しはしっかり見張るつもり。

ところが私のシミュレーションなんて杞憂も杞憂、検討違いも甚だしかったのだ。

メロは素晴らしく滑らかに加減速するし、ゆっくり歩くお年寄りは急かさぬようしっかり止まって待つし、ふとスピードを緩めたなと思うと、周囲に子どもがいたりして、なんというか完璧だ。ジェントルマンだ。格好いい。

だからやることを失った私は一生懸命景色を眺めて話題を提供しようと思っていたのに、まさかお手洗いを探していると勘違いされるなんて…最悪だ。

もう変わったことはしないで、大人しくしてよう。
そう決めて、そうっと左を見上げる。

きゅっと口を閉じ、目だけで左右の状況にさりげなく気を配りながら前を向く横顔が、もうなんとも言えず格好いい。こんな素敵な人が、休日の時間を私と共に過ごしてくれるという奇跡!とっても幸せ。

じっと見つめていると、急に「ナナ、ちょっと待て」とメロが今日初めての焦った声をあげた。

「どうしたの!?」
「俺のこと見過ぎだろ」
「えっ!!」

ぎくりと肩を上げたら、「え、じゃねーよ」と気の抜けた笑い声が聞こえてくる。

信号で止まったので「見ちゃダメ?」と覗きこんだら、「ダメ」と手のひらで目を隠されてしまった。

ちぇー、つまらない。

きょろきょろしてたら勘違いされちゃうし、お顔を見るのもだめだとなるとどうしよう。

手持無沙汰になってバッグを覗きこむと、お菓子を持ってきたことを思い出した。

「メロ、お菓子いる??」
「お、さんきゅー」

この支度はばっちりだったみたい!
うきうきとお菓子の袋を探る。

「運転中だからガムがいい?」
「チョコがいい」
「チョコ溶けるから持って来てないよ?」
「ナナが持って来ない訳ないじゃん」
「う…」

バレた…それにそれになんか、メロからの絶大な信頼に胸がきゅんとなる。

「チョコレイトあります…」
「さすが」

私の何もかもを見通してくすくす笑っているメロに、板チョコを小さく割ってあげる。

歯でかじって受け取ることのできるちょうどいいサイズにして口元に差し出す。ところがメロは私の指に唇が触れるようなくわえ方をするから、どぎまぎして戸惑ってしまった。

一つ言えることは、指先が、熱い。

自分もひとかけらチョコレートを食べ、指先についた溶け残りを何も気にしていない風にちゅ、と舐める。
と、すかさずメロが茶々を入れてきた。

「今俺と間接キスしただろ」
「な!!してないよ!!」
「お味はどうでした?」
「あ、あまいです」
「…ばか」

メロの方がよっぽどばかで、自分で吹っ掛けておいて照れている。
赤く染まった頬を、多分私も頬を赤らめながら見ているんだ。

**

目的のサービスエリアに到着したのは昼下がり。
混雑具合も思っていたほどではなく適度な活気にテンションが上がる!

端っこの方に進んでいよいよ駐車だ。
空いている駐車スペースの斜め前に車が進みギアをバックに入れたところで、ふとメロがこちらを振り返る。

どきっとして目の合ったメロを見つめていると、車は前にも後ろにも進まないし、メロも後方確認をしない。

「?」

「助手席に手やりそう?」
「…やりそう!!」
「…じゃやらない」
「なぜ!!」

どうやら今日の私は緊張して挙動がおかしいらしく、メロはそれを楽しんでいるようだ。
見透かされて悔しいやら恥ずかしいやら悶絶する私を尻目に、あっさり駐車を終えたメロが「行くぞ」とドアを開けたので、慌てて車を降りることになった。


**


お目当てのチョコレートは少し並んだものの無事にGETすることができ、今度こそ正しいお手洗い休憩の後、再び待ち合わせた。

自販機の横で腕を組んでいるメロは、遠目に見るとまるでモデルさんだ。
すらっとして、たまに金髪が風に揺らされて、周囲を歩く人がさりげなく見てしまう様子を、嬉しいようなちょっとやきもちなような気持ちで観察する。

外で会うと、好き合って、当たり前のように横にいられることが、特別なことなんだなって実感する。私といない時の、一人の男性としてのメロもうんと素敵だなぁ。

メロの前を今度はよちよち歩きの赤ちゃんが通りすがり、不思議そうにじっと見つめる視線に、笑顔こそ浮かばせないものの目だけで笑いかけている。

その様子に恐縮したお母さんに「すみません」と声をかけられ、「ああ…」と睨んでる訳じゃないですよ、な雰囲気を出すメロが愛しい。

「メロ赤ちゃんに優しい」

お待たせしました、と合流した後にそう言ったら、「見てたのかよ」と照れ隠しにメロがそっぽを向いた。


名残惜しい気持ちで駐車場を二人で歩き、車に乗り込む。

「まだ帰りたくないなぁ」
「帰った先だって一緒にいるだろ」
「そうだけど、デートって楽しいなぁと思って」

ベルトを締めしみじみ言うと、「そうだな」とメロが相槌を打ってくれる。

そしてこちらを見るや否や、呆れた顔をして「ベルトねじるくらい帰りたくないのか…」と私の肩上に手が伸びてくる。

「えっどこ??」
「ほら、今直すから動くな」
「ごめんありが…」

ベルトを確認した顔を戻そうとした瞬間。
こちらに大きく身を寄せたメロにちゅ、と唇を奪われた。

「なんつって」

至近距離で見つめるメロの瞳に、恋する顔の自分が映っていて、顔から火が出そうとはこういうことなのだと思った。

「なっ、ひ、人もいるのに…」
「見えないだろ」

見えてもいいし、と飄々と言ってのけながら、メロは自分のベルトを締める。
それから、今日のデートについて、いいことを教えてくださった。

「俺は年寄りにも子どもにも赤ん坊にも優しいが」

手が伸びてきて頭をぽんぽんされる。
心臓がばくばくしてるのに、とってもいい気持ち。

「ナナにとびきり優しいんだよ。分かったか?」

ピーッ!メロ選手、反則だ。
こんなの、嬉しくて、幸せで、泣きそうになってしまう。

やっぱりまだ帰りたくないなぁ、と心底思うけれど。

メロの言った通りとびきり優しくされた私は、大人しく「はい」と答えて興奮覚めやらない身体をソファに預けたのだった。

drive!
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