MOCHI**
「拝啓ナナ様日本ってとっても面白くてエキサイティングな国よ!日本人はこれを好んで食べているから送ります。ハウスのみんなで食べてね。
敬具(←こうやって挨拶するのよ!)
デイジーより。」
15歳を過ぎてすぐ日本に渡ったハウス育ちのデイジーから、お手紙と共に小包が届いた。
早速開けてみると、中には乾燥剤と一緒に包まれたジャパニーズ・MOCHI!!!
本物は初めて見た!
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「で、それを私にどうしろと。」
「よく分からないんだけど、ニアなら何か知ってるかなって…。前にみかんとセットになってるお餅を持ち帰らなかった?」
「あれは日本にいた時にレスターが用意した鏡…まぁいいです貸してください。」
「おお!!」
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用意した電気コンロのスイッチを入れ、ニアがパズルを解くみたいに迷わぬ手つきでお餅を並べていく。
「ただ焼くだけでいいの?」
「焼いた後に好みの味付けをするんです、確か。」
「そうなんだー。」
…初めてのお餅。美味しいのかな。ちょっとおっかなびっくり。
「もう焼けたかな!?」
「まだです。」
待ってる時間は退屈に感じるもの。
時折餅をひっくり返しながら自分のロボットに細工をし続けるニアの横で、一緒になってゴロゴロして待つ。
「そろそろかな?」
「まだです。せっかちですね。」
「ちぇー。」
醤油を用意するように言われ、キッチンまで取りに行く。
戻る頃には出来上がっているはず!
「できた!?」
「…もう少しゆったりと待てませんか。」
「待てない!待ちくたびれた…!」
冷ややかな目でこちらを一瞥すると、おきまりの絶句&無視態勢に入るニア。
「そんな顔しないで…あ!!何か割れてきてる!何これ!失敗!?」
「…これでいいんです。」
「へえ〜。」
顔を寄せまじまじ見つめてみると、水分を失ってパキリと割れた隙間に半透明のスライムのようなものが覗いている。
これを食べるの…?ちょっと不安。
「あ!膨らんできた!膨らんできた!爆発する!!…ん、白くてぷくぷくしてて…
お餅って何だか…ニアみたい!」
これはいい例えだ、と自信を持って口にした。ところがニアの返事といえば。
「白くてぷくぷく…ナナの間違いでは。」
「なっ!違うもん、ニアのほっぺみたいってことですー。」
売られた言葉を美味しく買って言い返し、ついでにニアの柔らかな頬をつまんでみせる。
するととんでもない反撃にあった。
「いえ、ここの方が餅に近いですよ。」
「きゃっ!
乙女の脇腹をつまむなんて…ロジャーに言っちゃうから!」
「…、」
拗ねたように視線を投げるニア。反省したのかと思えば、
「乙女だったんですか、初耳です。」
なんてことを!
これは奥の手を使うしかない。
「…いいもん、ワイミーさんに言うから。」
「…前言を撤回します。」
二人の間に流れる薄い沈黙。
思い出される幼少期。
「…ふ、ふふっ、やっぱりさ、ワタリもワイミーさんって呼ぶとちょっと別格よね。優しいけど怖かったもん。懐かしい。」
「懐かしがってる場合ですか、ほら。」
「ん?…わぁ!」
気がつけば不思議に大きく膨らんだお餅。ニアが手際よく潰しながら醤油に浸し、馴染んだところでお皿に盛り付けてくれた。
「せっかちなナナさん、お待たせしました。」
「待ってた〜!ニア、ありがとう!!」
MOCHI**
「…これ、醤油だけで食べるの?」
「海苔を巻くのがポピュラーなようです。」
「えっ、ここに海苔!?余計噛みきれなさそう。
ニア、クレイジーらしいから、気をつけて食べようね…!」
「私は要りません。それよりこっちの餅の方が。」
仕返しよろしく私の頬をつまんだニアが、伸ばすように引っ張るので自分が変な表情になっていくのが分かる。
「やーめーてー!懲りてないわね…!ワイミーさんに言いに行くから!」
「やめてください褒めてるんです。」
「どこがよ!」
「膨れてるところが愛らしい。」
「絶対バカにしてる!」
*end*