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Love You Too
つやつやの廊下を大好きなメロと二人で歩きながら、私はこの胸に宿ったきもちについて考えていた。

嬉しいのとも 恥ずかしいのともちがう

照れるのでも 興奮でもない高鳴り

ざわざわして、もやもやする。

こういう気持ちにあてはめられている言葉は「不安」とか「焦り」だと思って。


**


「私には解りません。本人に聞いたらどうですか」
「だめだめ、私メロとはうまく話せないの。なんかこわい?というか、緊張しちゃって。ほらメロって、頭もすごくいいでしょう?感情まで見透かされてしまったらってドキドキするの」
「頭なら私もいい方です」
「そうだけど、ニアはいっぱい話してくれるし、あと…」
「筆記用具を貸してくれる」
「そう!バレてた…?」

今思い返せば、あれはニアと食堂へ向かっている時だった。
突然クラスの子が割って入って、それ以来妙な噂が立ってしまっている。

「また二人で昼食?ニアってナナとしか話さないけど、あなたたち付き合ってるの!?」

結構大きな声だったのでそれ自体にびっくりしたのは勿論、これを皮切りに続いたみんなからの質問の嵐に、実は私たちはそんな風に見られていた、という事実の方にも面食らってしまった。

それにそれに、ニアのばか。
ニアはああいう人だから仕方がないけれど、言葉数が少ないものだから。

「…ご想像にお任せします」

あれ以来、否定すればするほど、ハウス内パパラッチが増えてしまっていたんだ。


**


でも、だからこそ。気になっていることがある。

あの一件以来、何だかメロから一緒に食堂に行こうと誘われるようになった、ような。


「ナナ、今日はグリーンスープだって。嫌いだろ?もらってあげようか?」

「ははっ!この段差で転びそうになるの何度目だい?こんなに抜けてるようじゃニアとは合わないね」

メロが沢山話しかけてくれて嬉しいけれど、でも心からは喜びきれない自分がいる。

私、疑ってしまっている。


"メロは、ニアに張り合っているだけでは?"


誰よりもメロのことを見てきたから分かる。
メロがニアに負けたくないと強く思っていること。
だからメロったら噂を信じて、ニアから私の気持ちを"勝ち取ろう"としているのではないか、って。

……そんなことしなくても、私の気持ちはずっとメロにしか向いていないのに。

浮かれてしまってからでは遅いの。
「これはニアとの駆け引きで、ナナ本人には興味なんてない」
そんな事実が隠れていたら、私きっと立ち直れない。

「ナナ、明日も今日と同じくらいの時間に授業が終わるから、教室まで迎えに行くよ」

「メロ…!あの、ごめんなさい。明日は私、一人で行くから!迎えは大丈夫!」

夢にまで見たメロのからの誘いを断ってしまったのは、傷つくのが恐かったからなんだ。


**


今日は久しぶりに、一人で進む食堂への廊下。

昨日、断った時のメロの顔を思い出すと、心臓がぎゅーっとなって落ち着かない。

怒るのでもない、憤るのでもない。驚いたような、悲しいような、悪い衝撃を受けた顔が何度も脳裏を過る。
あの時の私の声色はどんな感情を滲ませていただろう…考えるほど分からなくなって、踏み出す一歩が重い。

「私の彼女のナナ、こんにちは」
「ニア!」

突然、笑えない冗談で横についたニアに驚き大きな声が出てしまった。

「ニア!ニアがはっきり言わないからみんな誤解してるよ?」
「はい、集団心理は個人を動かすより容易いことが実証出来て非常に楽しいです」
「ひょっとして、わざとやってる?」
「まあ…狙い通りと言っても過言ではないですね」
「ひどい!」

語気を強めたというのに、一体何がひどいのかと言わんばりにニアが丸い目でこちらを覗くので、私も負けずじいっと見つめ返してこのところの悩みを打ち明けた。

「メロも、誤解してるみたいなの」
「メロほどの頭脳があれば、真相なんて見抜いてるんじゃないですか?」
「だったら直接何か言ってくるはずだもん。それなのにずっと核心には触れてこなくて、様子がいつもと違うの」

私の真剣な相談を前に、はあ、とニアがはっきり大きくため息をついて、心底呆れた顔をする。
それからまったく、高慢ちきな恋愛のスペシャリストみたいにゆっくりと、シンプルな質問を繰り出した。

「では"付き合う"って、具体的に何をするんです?」

ばかにされてるのを自覚しながら、しどろもどろ、私は自分のイメージを口にする。

「えっと…手を繋いで、キスする…?」

「こんな風に?」

ニアが私に手を伸ばした時だった。

「ニア!何してるんだよ!」

声と共に掴まれた手首を引っ張られ、私の身体は大きくよろけた。

「メロ!?」

今までに見たことのない剣幕で割り入ってきたのは他でもないメロだった。

その場の空気が固まった…と思ったのは私だけのようで、ニアは差し出した手を何事もなかったかのように持ち上げ、前髪を巻き付けて悠長に続きを話す。

「手段を選ばず無理やり奪うなら、手を繋いでキスすればいいんです。しかし感情を伴うと厄介なものですね、メロ。勉強になりました」

言うだけ言ったニアはくるりと向きを変え、すべるように歩き出す。
その後ろ姿を見ながら、次々浮かぶはてなとひらめきで頭の中が埋まっていく。

"そっか、"勝ち取る"だけなら既成事実を作った方が早いもんね"

"ならメロはきっとこの件が根も葉もない噂だって気が付いてたのね!だから勝つ必要もないし、既成事実なんて作る必要がなかった"

"ん?じゃあどうしていっぱい私に話しかけてくれたんだろう??"

あたまの中を駆け巡る、メロの行動とニアの今の言葉…。


「…僕はお前のテストサンプルじゃない」

震える声でぽつり、届いたか届いていないか呟いたメロの顔が真っ赤で、怒ってるのか、それとも耐えがたい羞恥に晒されているのか私には分からない。

だけどこれだけは言える。

どんなメロでも、私はそんなメロのことが好きだって。

「…メロ?」
「……」

角を曲がったニアの気配がなくなって、静まり返った廊下で、勇気を出して口を開いた。


「あの、手首…」
「ああごめんね」
「ううん、違うの」


急いで、離してしまいそうなメロの手を上から押さえる。


「手で、繋がない…?」


勇気を出して見上げてみたら、衝撃を受けたメロの顔が見えた。
今回の衝撃は多分、いい方の。

メロがうんって答えてくれて、私はぎこちなく緩められた指の間をすり抜けぎゅっとメロの手を握る。
メロの指先がおずおずと添えられて、二人の繋がりの間に初めてできるほのかな熱に、胸がいっぱいになった。


**


かくして私たちは改めて一緒に食堂へ向かうことにする。

これからは今までよりきっともっと沢山お喋りができそうだし、

それに新しい噂が立っても、困ったりなんてしなくなったんだ。


Love You Too
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