on the sofa
気が付けばニュースが始まっていた。壁にかかった時計が示すのは午前5時。
分刻みで明るくなっていく外の気配を感じて、はっと我に返った。
「あれ、メロ、今日どこか行くっけ?」
引き寄せられた身体、肩を抱きしめた腕の先で、私の頭をゆるゆると撫でてくれていたメロが優しい声を出す。
「ん。行かない」
「ああそっか良かった。次のお仕事まで早いって言ってたなと思って」
「それは明後日」
「うーーーん明後日か。やっぱり早い」
口に出すと改めて実感が増す。時期尚早の名残惜しさがみるみるわいて、額をぐりぐりとメロの胸へ押し付ける。
まだ、明日だって丸一日あるのだけど。
「さみしい?」
今にも溶けそうなチョコレートみたいに柔らかく甘い視線で私を見下ろすメロに。
「さびしい!」
濁点つけて迫ってやるのだ。
「…俺も」
「絶対、うそ」
私の心を掴む言葉を知っているメロが調子のいい相槌を打つから、悔しい。
彼の目論見通りきゅんと来ながら、だけどそんなの作戦だって見破ってみせる。
「行く時はあっさり行っちゃうくせにさぁ〜。私寂しくて、メロが出発する日はその後一日ろくに行動できないよ」
何とはなしに言ったんだ。4割本当、6割オーバー。
だけど思いのほか、メロはそれを真に受ける。
今度はこちらの計画通り。
私をぎゅううと強く抱きしめて「そういうナナ見たら行けなくなるからあっさり行くんだろ」と耳元に吐息と共に少し切羽詰った声がかかる。
腕を引き抜きながら姿勢を変えるメロが首筋に小さな音を立ててキスを重ねるので、きゅっと目を瞑る。
肌に当たる熱が、吸い付くように触れる唇が、押し寄せるように迫って息が漏れる。
「目、開け」
言われるがまま瞼を開く。天井の明かりはメロで遮られているけれど、垂れる髪の奥で影になったメロが逸らさぬ瞳でこちらをじいっと見つめていて、恥ずかしいから眩しいふりをする。
「ふ…真っ赤」
「ぅ…るさい…」
言葉だけで偽物の抵抗をして、形ばかり顔を逸らして、だけど喜んで、私はこの時に身を任せることに決める。
あと一日はうんと溺れる。
かわいいって呟きと共に視界が塞がって、早朝は瞬く間、深夜に舞い戻った。
on the sofa