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What is the best size?
「あれ。パジャマ忘れちゃった」

ニアがあんまり構ってくれないから、乗り込んだ23時。
突然来たからさっきまで「帰れオーラ」が放たれているように思えたニアが、特製ミルクティーのおかげで若干態度を緩めたところだったのに。
これは痛恨のミス…!

「ここにナナの着替えはありませんよ」

ううう、このままでは私、追い出されてしまう。

「これ、借りちゃだめ?」

それで咄嗟に掴んだのが、ベッドに放置されていたニアのパジャマだったのだ。

焦りすぎて、嫌がられそうなことを言ってしまった。けれどもう引き返せない。これで不機嫌MAXになってしまったら、今日のところは敗北を認めよう…そう、思っていた。けれども。

「勝手にしてください」

すっかり長くなった髪の毛を揺らしてぷいとそっぽを向いたニアが、思っていたのとは違う反応をしたので、思わず口元が緩んでしまった。

「ありがとう!」


**


「…わ……」

シャワーを浴び終わり、脱衣スペースの大きな鏡の前。

柔らかなシルクサテンに腕を通すと、肌にするりと乗った生地がしっとりと寄り添って緩やかに温度を含んでいく。

その熱気に、ニアの匂いがむわりと沸き立つ。くらくら、めまいがしそう。

抱きついた時、ベッドに潜った時に感じたことのある、特徴はないのに心地いい、不思議な香り。お日様のような、しゃぼんのような、それから少しお花のような、上品で色っぽい匂い。

思わず両袖で顔を覆って確かめてしまった。うんやっぱりいい匂い。ニアの匂い。
視界が暗くなると、まるでニアに包み込まれてるみたい…後ろからぎゅっと抱きしめられているような…。


想像なのに恥ずかしさでいっぱいになる。シャワーの熱か自身の熱か、火照った頬をパタパタと仰いで、またニアの匂いを感じてしまいつつ、バスルームを抜けた。

「…ありがとう〜!」

お邪魔をしないようそうっと部屋へ進んだら、ニアは夢中でラジコンのリモコンを動かしているところだった。

作業中ではなかったことに安心して動きの忙しない手元をぼけっと見つめていると、途中であることに気がついた。

「ニア、前はだぼだぼだったのに!」

いつの間にかちょうどよくなっている袖丈。前は今の私みたいに袖を余らせていたのに。
言うとリモコンを操作していた手が止まり、ニアがこちらを振り向いた。

「服は通常、サイズの合ったものを着るべきです」
「わ!ニアにだけは言われたくない!」
「余計なお世話です、ナナのような着こなしは一般的にだらしないと言うんですよ」
「わーーニアにだけは!言われたくない!!」

でも、気がつけば本当に。
幼い頃は、逆に私のパジャマを貸すことだってあったのに。今ではきっと腕すら通らない。

ふらりと立ち上がったニアがこちらに歩み寄り、近づいてくる。

そして、近づくごとに上がっていく視点に、より深く思う。

ああ、やっぱりニアは成長していたんだって。

「?」

ニアは目の前まで来ると立ち止まり、おもむろに私の着ているパジャマの袖に人差し指を突っ込んできた。何をする気なのかと一瞬固くなってしまったが、何のことはなくじゃれているみたいだった。

指を床と平行にしたまま袖を吊り上げクレーンゲームのように私の腕を持ち上げたニアは、それを目の高さまで持ってきたところでしみじみ呟いた。

「とはいえ以前の私は相当に可愛かったのだと改めて自覚しています」
「えっ自分で言う…?」

そうそう、相当に可愛かったのは悔しながら事実ではあるのだけど…。
おかしくなってにやついてしまった。

しかし私の発言を受けてニアは呆れたようにため息をつく。

「…鈍感」

そして次の一手であっさりととどめを刺すのだ。

「袖が余っていると愛らしさが増して見える、という意味です」

「わ」

ニアらしい言い回しで、ニアらしからぬ褒め言葉を口にするものだから、開いた口が塞がらなくなってしまう。
それはいわゆる呆れているという意味ではなく、純粋なときめきで。

嬉しすぎて、右へ左へ袖を引っ張って私の腕を揺らし「マリオネットのようでもありますね…」ともっともらしく観察めいたことを言うニアに身を任せていたら、急に袖を引かれまんまと引き寄せられてしまった。

おさまりよく包まれるこの感覚も、いつの間にかニアの身体が私よりうんと成長していた証拠。
名実共に"大きく"なったニアに抱きしめられると、パジャマを着た時と同じ匂いがして急速に鼓動が高鳴っていく。

「だらしないのも、悪くはないです」

ドキドキしていて、頭の上から聞こえてきた声には頷くので精一杯だったけど、実は私もこの瞬間同じようなことを考えていた。

それは、つまり。


パジャマ忘れるのも悪くないな、みたいなこと。


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