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なかよしのしるし
「そのロボット、可愛いですね」

と言ったのは数十秒前のこと。

「そうですか、ありがとうございます」

とニアが答えたのはその直後。

「5年前のクリスマスにロジャーから受け取りました」

それからの数十秒。

「下町の端にあった怪しいアンティークショップで手に入れたとかなんとか」

ニアは手元の玩具の説明を丁寧にしてくれている。

「ブリキの趣きは嫌いではありません。少々…手入れは必要ですが」

だけど私の心はそのブリキに乗せられた鈍色みたいに、もやもやもやもや。

だってさっきからずっと。

ううん、付き合う前から、今でもずっと。

「あの!」

意を決して切り込むと、ニアはきょとん、とこちらを見る。

「…はい」

ああ、話している最中なのに割り込んでしまった。失礼な子だと思われたらどうしよう!

感情の読み取りにくいニアの瞳にじっと見つめられ、たじたじになっているとニアの方が続けた。

「つまらなかったですか。すみません」

「い、いいえ!!」

そんなこと、絶対ない。ニアの話がつまらないなんてこと、絶対ない。

ニアが自分の好きなものについて話しているところ、SPKのお手伝い中は見たことがなかったし。

冷たいのに暖かい不思議な声が、淡々と世界に紡ぎ出されていく様子を間近で感じられてとても幸せ。

Lが肉声を公開しないことを、こんなところで密かに感謝しているくらいで。

「そんなことないの!ただ…」
「ただ?」

ただ、

「け、敬語!やめませんか!?」

「……?」

「私たち、その、付き合ってる訳ですし、ずっと敬語なのも他人行儀かな?って、その、嫌でなければ」

とうとう言った!
もう何度も言おうと思ってた。ニアと話す度に、実はずっと気になってたこと。

ニアと付き合って、自分がとんでもなく欲張りだと分かった。
大好きな人と想いが通じているという奇跡みたいな事実に飽き足らず、もっと、もっと距離を近付けたくて。それで、なんだか、焦ってる。

「いいよ」

ニアが初めて敬語なしで話してくれたのは思い切って打ち明けたその直後のこと。
もっとかかると思っていたから拍子抜けもいいところ。だったけど。

「…といった感じにすれば良いんですか」

「…はい…!」

思わぬ続きに私もつられてやっぱり敬語になってしまう。

「落ち着かない」
「うん」
「ナナも敬語なし」
「うん」

「ど…どう?」

告白した時より胸がどくどく言っている気がする。
ニアが、なんて反応するのか、怖い。

「……」
「……」

無言で見つめ合うこと数秒。伸ばされた手で頬をふにっと掴まれた。

「やだ」

少し甘えたトーンに聞こえるのは、私の気のせいだろうか。ほっぺが熱い。熱い熱い熱い。
やだって言われてるのに熱い。好きだ。

「なんでー!」

思わず声をあげたのがたった今のこと。

「充分特別であることを自覚していない罰です」

なんだか嬉しい予感のする言葉をニアがくれたのが数秒後のこと。

…ああそうか。

“ニアが自分の好きなものについて話しているところ、SPKのお手伝い中は見たことがなかったし”

少し口数の増える様子

聞いてもないことまで教えてくれる姿


…その方が、敬語よりもずっと。


なかよしのしるし


敬語以上に、私はちゃんと詰まった距離感でニアとお話しているんだと気がついたのは、さらに数秒経った後のこと、でした。


*


「ああでもナナは敬語使わなくていいです」
「?」
「…かわいらしかった、です」
「あ、ありがとう、ございます(敬語)」
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