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ひとりじめ
ニアが珍しく窓を開けた。

外の風がふわふわ入って、それはクーラーの風に比べたら幾分か温度を含んでいたけれど、なんだか正しい夏の温度で、とても気持ちが良かった。


ニアは窓際から戻ると静かに床に寝そべって、パズルを組み立て始める。
私はその横に同じく寝そべって、彼を眺めた。

綺麗に揃ったうぶ毛まで見える距離。
触れなくても互いの温度が伝わる距離。

時が止まればいいのに、と思わず願う距離。


バラバラとパズルを組み立て直す音を遠く耳にしながら、いつの間にか心地よく眠っていた。
瞼の裏で、斜め上にいるニアが無表情でパズルをひっくり返している様を思い浮かべて。

無表情なニアが、すぐ横に陣取る私を許容してくれる事実。
そのことに、安心しきってしまう。

彼のまとう”L”は世界中に知られて欲しい。
素晴らしい実績と、責任。
こんなにも大きな重圧に対峙しながら世界を動かしているところ。

でもどうか”N”は、私だけのものでいて欲しい。
誰にも知られたくなんてない。




まどろみの中でそう考えて、少し覚醒した時口にした。

「寝てた」
「はい」

「ニアも寝てた?」
「ええ、少し」

…本当かしら。

「あのね、私ニアが好き」
「ありがとうございます。私も好きですよ」

それはさらりと彼が言うものだから、心臓が高鳴る。

「ニアが頑張ってることはね、みんなに知って欲しい!!って思うの。でもニアの存在は私だけが独り占めしたいって、今そんなこと思っちゃった」

こう言ったら、ニアの答えは想像がつく。
“私はいちいち他者に認知されたいとは思いません”、とでも言うのだろう。

ところが。

「私も」

ニアはゆっくりと指先を動かしながら、また同意しようとする。

ちょっと、いつもより安易な返事に身構える。
そんなこと、口に出す人じゃないのに。

「思います。油断した口元から唾液を垂らす姿は、やはりなかなか私以外には見せないで欲しいと」

「だえき」
「はい」

一気に目覚めていく頭の中で正常に思考回路が機能した時、私は大慌てで口元を隠すことになる。

「えっっ!」

うわーーもう、恥ずかしい!!ふと触れた水分の跡に、何を呑気にのろけていたのか羞恥で顔が熱くなっていく。

だけど視界の端の彼はやっぱり優しくて。

「そういうところが」

とティッシュを手渡してくれるのだ。


ちょっとばかり体感温度の上がった室内を、相変わらずの風がふわふわと通り過ぎる午後。


「…すき、って言ってくれる?」


ひとりじめ。


「……」


今度ははっきりと口にしてくれなかったニア。

だけど伏せられた柔らかい笑みこそ、この時を満たす充分な答えだった。
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