朝の風景
「ぐっもーにん…」「…」
寝転んだまま朝の挨拶をすると、・は至福の顔を浮かべた。
「はは…いいな。」
「何が??」
私は質問する。本当に分からないのだ。
「ナナが言う英語はネイティヴとは違うから。寝覚めに聞いてもすぐ君だと分かる。」
「む。」
それって私の英語が拙いってこと?
せっかく努力してるのに、何だかなぁ。
でも・は勘がいい。
私が何に気を悪くしたかすぐに感じ取って、背を向けても後ろから優しく抱きしめてくれる。
「その可愛い言い方がいいの。これからもずっとそうして?」
「…」
喉まで上がっている拗ねた言葉が飲み込まれる。
こんなの、反則。
「もっと英語うまくなっちゃうかもしれないもん。ずっとこのままは無理かも。」
それでも少しあまのじゃくに返事をする。
「…じゃあ誰とも喋らせないでおこうかな。ナナが他の人と親しくなったら困るし。いっせきにちょう。」
わざとらしく日本のことわざを言いながら体制を整えた・の、柔らかく甘い、吐息のような囁きが耳元で聞こえる。
「そんなこと、・はしないでしょっ」
言葉を返すと、
「ごめん、冗談。ナナの声ならどんな言葉でも愛しいよ。起こしてくれてありがとう。」
「…」
恥ずかしさと幸福が入り混じって、コクリ、と頷くだけになる。
「そういうところがいじらしくて可愛い。離れたくなくなるよ。」
・はまたこちらをくすぐるような言葉をかけながら、ベッドから抜け出し着替え始める。
「ふふ…厳しい上司がいる職場に行きたくなくなった?」
私は彼がどんな職務についているのか、トップシークレットな事態に関わっているとのことで詳しくは知らない。
「ああ…嫌なこと思い出した。」
じとーっと恨むような目線を送られ、私もベッドから降りる。
ネクタイを締めてあげ、頬にキスする。
「待ってる。」
「無事を祈ってて。」
「勿論!」
にっこり笑いかけると、きつく抱きしめられる。
いつも、そう。
何か命に関わる仕事をしているんだろうな、と何となく分かる。
だから私も抱きしめ返す。
「さ、動こ?」
「はーい…。」
少し甘えた・の背中を押して寝室を出る。
今日も彼を待つ長い1日のはじまり。
*end*