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ハウス庭にて洗濯物
天気の良い日は、ハウスのお庭に出てたっくさんの洗濯物を干す!
今日は大量のシーツシーツシーツ!
あたたかい風に吹かれてなびく白は、まるで降りてきてくれた雲。それとも地上の波、かな。
前後のシーツがふわふわと大きくたゆたうと、別世界にいるようで何だか無性にうきうきする。

「わぁ〜〜〜」

シーツの間で地上の波乗り気分でいると、揺らいだ白の隙間から黒い髪が見えてきた。

L。

口には出せないから目だけでそう言う。「L!来たの?」って。

強い陽光に当たったLの髪は透けるように軽やかで、不思議な色をしている。
その軽やかさの下には、どんよりと暗い目元。
指先をかじったLは何だか腑に落ちない表情をしている。

「?」

言葉に出さずに首を傾げると、ぽつりと彼は呟く。

「羨ましいです。ナナに洗濯してもらえる彼らが」

「あぁ…」

理由を聞いて思わず笑ってしまった。それには明確な理由がある。

「だってあなたは匂いのついたものは避けたいでしょう?子どもの頃からずっとワタリに
任せてクリーニングしてきたんだから。集中力を妨げない為にもそうしているんじゃない」

そうですが、と前置きしてLはなおも小さな抗議を続ける。

「ナナの手により仕上げられた、と思えば推理力が大幅アップという可能性も」
「あはは!ない、ない」

御冗談を、と相手にしないで笑う私を、つまらなそうに見やったLはこれから干そうと思っていたシャツをかごから一枚手に取って鼻に近付け、「これくらいなら問題ありません」とアピールを重ねる。

「分かった、またいつかね」

適当に聞き流して洗濯物を受け取ろうと手を伸ばす私に、さっと後ろ手でシャツを隠して大人げない名探偵は突っかかる。

「いつか、は訪れない約束をする時に使用する言葉です」
「…もう。そうとは限らないでしょ」

再び手を出し、目で「渡して」とアピールしても、Lの意思は固い。

「約束が先です」
「分かった、じゃあ1回ね。次の時に試してみるから」

面倒ながら渋々約束を取り交わし、Lの差し出した手元へ近づく。

シャツを受け取ろうとしたその時、Lがフェイントよろしく手を高く持ち上げる。
つられるように「あ!」と上体を上に逸らしたら、ぐいっともう片方の手で抱きとめられてしまった。

「わっ何!?引っかけた〜〜」

「気持ちよく引っかかりましたね」

頬が触れたLの胸元は小さく揺れていて、笑っているのが伝わってくる。
最初からこれが目的だったのか?
見事に引っ掛かって悔しいながら、ふと素晴らしいことに気が付いて、突如私は自分からLに手を回しさらに距離を縮めた。


Lって、無臭じゃないんだ…!


そりゃあ生きとし生ける者、無臭である方が難しいとは思うけれど、Lの匂いなんて考えたこともなかった。クリーニングのアイロンの無機質な感じだとばかり。

もちろん、ワタリの仕上げた完璧なまでの「色のなさ」ではある。
あるんだけどこれは、無臭とは違う。空気、かな。蒸気、かな。
何とも表現しがたいけれど、無臭以上の透明感を持って、確かなLの存在を感じる。

あとそれに、お砂糖かけたみたいな。

「りゅうざきって無臭じゃないのね!」
「?」
「ちゃんと匂いがする」
「…まさかワタリと同じ類いとか言い出すんですか」

ワタリだってすごーくいい匂いですけど!あんなにお世話になってるのに妙に失礼な言い回しをするので「ちょっと!」と言い返してしまった。

「匂いはなかなか自覚するのが難しいものです…が、そういえばナナはいつも落ち着くいい香りがしますね」

そう前置いて、Lは改めて提案する。

「ですから今度、私の衣類も手がけてもらえますか?」

覗きこんで、わざと作った笑顔でにこりと働きかけられる。

普通だったら、照れて頷いちゃうところだけど。

「ううん、この香りのままでいて欲しいからやっぱり引き受けられないっ!」

Lに眉をひそめられるのも厭わず、私はついつい約束破りをしてしまった。
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