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可愛いって10回言って?メロ編
「ナナ!今日メロがゲームに負けた罰でナナに可愛いって10回言うから、楽しみにしとけよ♪」

「ばっ!罰って…」

可愛いって言うのが罰だなんて失礼しちゃう!

可愛いって10回言って?
メロ編**


突然のマットの宣言に少しイラッとしたものの、あのメロの口から10回も可愛いと言われるなんて…本当かなぁ、結構楽しみ。

そんなことを考えながら一人ブランチを用意していると、早速メロがキッチンにやってきた。

「おはよ」

「おはよう〜!」

「…」

「…」

二人の間に微妙な沈黙が流れる。

「今日は髪縛ってんのか。」

「うん、暑くて。変?」

ちょっと促し気味に聞いてみる。言うかな?

「いいんじゃん。」

あれ?
聞いていた話と違いますけど。

なるほど、メロさん夜まで時間はありますからね!
これからじっくり10回言ってくれるんですね!

私は先行きに芳しくない予感を感じつつ、1回目のチャンスを逃したメロに微笑みかけた。

「あー…」

椅子に掛け、だらっと背もたれに身体を預けたメロが天井を仰ぐように見る。

やはりメロにはハードルが高いのでは…

そう思った時、マットもキッチンに入ってきた。
罰ゲームに戸惑う友人を確認しにわざわざチェックしにくるなんて、なんてイヤな奴!

「おはよっナナちゃん♪今日もかわいーねっ」

ついさっき話したばかりなのに、今日初めて顔を合わせたみたいに言うマット。
鬼だ、ニコニコしてるようでこの人のハートは氷でできてるに違いない。

「ありがと」

苦笑いで返せば、何のことはない、鬼だと思われたマットは友人メロに助け船を出すつもりだったらしい。

「メロも今日のナナ可愛いと思うだろ?」

促すように話を振ってあげている。
ごめんマット、君のハートは普通にぬくもりいっぱいだ。
そんな手助けを得たメロの言葉は。

「いつもだろ」

…!
これはカウントに入れましょうか!?

私はドキドキしたものの、マットの判定は厳しい。

「なるほど、いつも か わ い い ってことか?」

はっきり「可愛い」という単語を発するように促す。やっぱり鬼だ、氷のハートだ。

「あー」

メロは含みながら返事をして、別室へ移動してしまった。
二人きりになったダイニングで、私はマットの肩を引っ叩いた。

*

庭で子供達とお喋りしながら洗濯物を干していると、またメロが現れた。

「お疲れ」

「ありがと。珍しいね?どしたの?」

気にしていない素振りで聞けば「ちょっと風に当たりに」とメロが答える。夏の蒸した風にさらわれた金髪が、耳元で揺れて綺麗。

「ナナちゃんっ」

次に干すタオルの山に手をかけた時、一人の女の子が駆け寄り話しかけてくれた。

「今日のワンピース、すっごく可愛いね!」

「まあ!どうもありがとう」

子どもの言葉と侮るなかれ。
本音を言ってくれるから、子ども達に褒められるのはとても嬉しい。
にっこりと微笑んで女の子の頭を撫でると、彼女は振り向き、

「お兄ちゃんも可愛いと思うでしょ?」

と素晴らしいパスを投げかけた。

しかしメロは目を見開いて固まった後、「…そうかもな」とまたしてもはっきりしない返事をしただけだった。

このままじゃ何もなく1日が終わっちゃいそうだな、私はこっそり静かに肩を上げた。

*

昼食時、ニアが持っていたロボットを大袈裟に可愛いと褒めて「ロボットよりナナの方が…」の流れを作るも、不発。ちょっと分かりづらかったね。

夕食の用意で火傷をしてしまうおっちょこちょいな一面を見られてしまうも、「気をつけろよ」って。優しいけれども!でもそうね、火傷は可愛くないです。






(結局、今日1日何もなかったなぁ)

1日が終わりそうになって、ちょっとどころか、実はとても期待していた自分に気がついた。
少しくらいメロから可愛いって言われてみたかったなぁ。

だけど、気軽にそういうことを言わないのがメロらしいし、こんなものよね。
そんな風に私の中で踏ん切りはついていた。


*


消灯の時間に子ども達の部屋を回った後、流れでL達にも順番に挨拶しに行く。

さて、次はメロの部屋。

今日1日の妙な期待とがっかり…ぬか喜びした分をどう落とし前つけてもらおうか!
などと密やかに冗談めかして考えながら、妙に勇ましくドアを開ける。

「メロー、おやすみの挨拶しに来たよー」

「…」

メロはベッドに仰向けに寝転がり、片腕を顔に乗せて動かない。

「寝てる?」

「…」

「電気消すよー…?」

「…」

パチッ

いつもに比べると寝るのがやけに早いな。今日は緊張しすぎて疲れたのかな?
まさかね。
私はくすりと小さく笑って電気を消す。暗くなる室内。
部屋の外に出ようとドアを開けたその時。

「…ナナ」

寝てると思っていたメロが言葉を発した。

「わ、起きてたの!」

「そのままでいい」

すぐに電気をつけ直そうとした私を、メロが制止する。

「?」

「ドア閉めろ」

「え…暗闇こわい」

「いいから」

メロの真剣な声にとりあえずドアを閉める。
目が慣れれば月明かりで大体見えるようになり、思っていたより部屋は薄明るく感じた。
しんと静まった月夜の部屋。
甘い、チョコレートの香り。

「ナナ…いつも、その、助かってる」

「なに〜?突然。お気遣いありがと」

和ませるように笑って返すけれど、メロが緊張しているのが伝わってくる。

暗闇の空気がピンと張り詰め、胸のドキドキが高まっていく。

いよいよ言うか…?

「俺は…ぁー…いつも感謝してる」

「あ…ありがとう…」

そんな風に思ってくれてたんだと知り、嬉しい。

しかしビンビン伝わる緊迫感。

暗闇に二人きり…ここで真面目に言われたら、どう反応すればいいか…。

「お前のそういうとこ…」

メロがベッドから降りる。

「俺は見てるし、」

そして、近づいてくる。

「だから俺はナナのことを」

もう、目の前。



ドンッ!

まるで見事に。壁際に捕らえられる自分。
メロが片手を私の頭の真横について、うなだれた。

「やっっっぱだめだ…!言えるか…マットのやつ…」

「えっ?」

事情は知っているのに、突然ブツブツ言い出すメロに思わず聞いてしまう。

「マットがくだらないこと賭けやがった」

「くだらない…?」

「わざわざ言わなくても常に思ってることだから俺は言わない」

常に思ってるって。

常に!?
わあ、もう、ばかばか!
メロの切羽詰まった言動の中から嬉しい言い回しを見つけて、私は飛び上がりそうになってしまう。

「何を言えって言われたの?」

氷のハートではないけど、私もなかなか意地悪かもしれない。だって聞きたい聞きたい、言ってくれるなら。
常に思ってるその言葉をどうぞ!

「うるさい」

「うるさいって何よ〜!」

「しつこくすると黙らせる」

「はあー?」

薄い暗闇の中で斜め上に位置していたメロの顔が近付いてくるのが分かった。

何だろう、この感じ。この角度。
妙に色っぽい。

あ。

ピンと来た時にはもうメロの唇が触れるまで数センチというところだった。


ッバダンッッッッッ!!!!


緊張で固まっていた心臓を打ち破るような、ものすごい音を立てて部屋のドアが突然開いた。

「よぉ〜メロちゃん、お前まさかノルマ達成もせずにナナ襲ってんじゃねーだろーな?」

振り向けば、そこにいたのは笑ってるのか怒ってるのか分からない表情のマット。とりあえず、ハートは燃えてそうだ。

「うるせえお前勝手に入ってくんなっ…」
「お前こそ勝手にナナに壁ドンしてんじゃねえドンが聞こえてんだよドンが」

追い出そうとするメロと中に入ろうとするマットが、ドアをぐぐぐぐ…と押し合う。

「ちょっ!ちょっとちょっとドア壊れる!メロもマットもやめてよ!」

二人の手をとって子供じみたやりとりを止めさせる。

「二人とも、妙なことでケンカしないでよ!私はもう寝ますっ」

まだ若干ヒリついているメロとマットを放って廊下に出る。
メロの方を振り返ってみたけれど、いざ目が合うと睨もうか照れようか、気にしてないように振る舞うべきか、頭の中がごちゃごちゃになって結局じとっと見つめるだけになってしまった。

そして、それはメロの方も同じだったようで。

互いに気まずいまま、おやすみの挨拶をして私は逃げるようにその場を去った。

部屋に戻ってベッドに入ると、独り言が口をついて出た。

「何だったんだ今日は…」

そわそわして期待して、がっかりしたりドキドキしたり、かなり忙しかった。感情が沢山動くことでも身体は疲労するんだ、としみじみ実感する。

でも。

なんだかんだメロが嬉しいことを沢山言ってくれていた事実を思い出す。
褒め言葉は"可愛い"だけじゃない。
的確な言葉と行動で、いつも静かに支えてくれているクールなメロ。

明日は"こちらこそ感謝してます"って伝えに行くと心に決めて、私は緩む頬を布団で隠した。

*end*
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