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訪問者
ドアスコープから外を覗いて驚いた。

そこに立っていたのは、一人の少女。

年齢を鑑みれば、概ねどこからやってきた者かは想像がついた。

「ワイミーズハウスから来ました。もし良かったら開けて」

静かに、丁寧な口調を心がけてはいるが、彼女からは焦りと意思の強さが感じられる。

「ニア…?」

既に盗聴器の方は設置してあるので、それ越しにニアに確認する。

『構いません』

許可と同時にドアを開ける。

恐らくそこまで馬鹿な女ではないだろう。

「ありがとう」

彼女は遠慮なく室内に入る。

案内されたリビングまで真っ直ぐに躊躇なく進むが、鏡ごしに見ればチラチラと各所に目を向け確認しているのが分かる。

「ハル・

「リドナー、と今は名乗ってるんでしょう?」

名乗ろうとして、彼女に先手を取られる。

そこまで調査済みなのか、とやや戦慄した。

メロといい、どういったルートを辿ってるのかしら。

「私は…そうだな、ナナ。長居をする気はないから安心して」

「ええ」

ナナと名乗った彼女は、淡々と言いたいことを話し出す。

こちらとしても手短に述べてもらう方がいい。

「ある人を探しているの。ご存知だとは思うけど」

「…メロね」

今度はこちらが言葉を引き取る。

「ニアも既に気が付いてるわね」

「ええ、今日、私のところに来るかもしれないと話があったわ」

盗聴器のことを言う気はない。

知らせる必要がないし、何より彼女なら既に勘付いているだろう。


「ナナ、あなたもキラを追っているの?」

そうでなければ、何故危険をおかして日本まで。

「いいえ」

沈黙が流れる。

「キラってどんなやつかと気になりはするけど…私は女だから。人殺しには興味ないのよ」
「あら、人殺しを追っている女もここにいるわよ」

飲む物くらい出すべきか。

しかし手をつけないことが分かりきっている。

「いつだって女が興味あるのは、自分の"好きな人"でしょう?
あなたがここにいるのだって同じ理由のはず」

そう言われふと、亡くなった友人を思い出す。

彼女もまた、大切な"好きな"人だった。


「突然お邪魔してごめんなさい。この部屋にはいないみたいだからもう行くわ」

この部屋にメロがいないと明言してくれたのは助かった。

彼女はバスルームのメロに気が付いていないようだ。

「飲み物くらい出してくれればいいのに」

意思強い顔にごく僅か甘えるような色を乗せ、ナナが振り向いた。

「どうせ飲まないと思って」

ストレートに言葉を返す。

「正解。FBIってステキね」

「それはどうも。幸運を祈るわ」

その途端彼女の顔から一切の柔らかさが消え、あっけなく手を取られた。なんて素早い。

「こちらこそ…あなた達にこそ、幸運を」

握られた手の力強さに驚く。

握力の強さではなく、信念の強さに。

玄関を出る間際、どうしても気になって余計なことを聞いた。

「何故日本に?」

後ろ姿のままその場に立ち尽くしたナナは答えた。

「もう一度、好きな人に会いたかっただけよ」

会いたい、ではなく会いたかった、と答えた彼女に、余計なことを言われたと思う。

「ニアにも会いたかった」

ニアに"も"が示す意味は明白だ。

「幸運を祈るわ」

彼女はパタン、と静かにドアを閉め出て行った。

遠ざかる足音が聞こえる。

振り向けば反射したガラスごしにうっすらと、バスルームで空虚を見つめるメロが見えた。

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