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走れ!ホワイトデイ
ナナは激怒した。

必ず、かの無関心を決め込む彼らの心を引き寄せねばならぬと決意した。

ナナには彼らの素性は分からぬ。

ナナは日本に滞在する彼らの同居人である。
米を炊き、味噌汁を飲んで暮らして来た。けれども記念日に対しては、人一倍に敏感であった。

「今日は何の日だ?」
「3月14日です」

ナナが直接的に問えば、ニアが直接的に答える。

「3月14日といえば、何の日だ!」

ナナが重ねて問い、ニアが重ねて答える。

「…美白の日、らしいです」

なるほど、まごうことなき美白の人からそう言われたものの、欲しい答えを得られかったナナは不納得であった。マットがそこに被せる。

「円周率の日でもあるってよ!3.14!」

「…そうなんだ!でも…うーーーん!」

くすくす笑うマットを悔しそうに小さく睨んだナナは次にメロを見やる。メロはちらりと彼女に視線を渡し、優しく丁寧に答えた。

「ナナ、国が違えば文化も違うぞ…?」

ナナは、メロの言いたいことなど既に分かっている。

英国にはホワイトデーなどない。

国が違えば文化は違うのだ。重々承知している。
けれども、そんな3月14日、彼らを少しドキリとさせることもできなくはないのだ。
そして是非とも、彼らからもドキリをいただきたい。郷に入っては郷に従え、だ。

「文化の違いがあることくらい、私だって分かって…」
「三人とも。女性をからかうのはよくありません」

そこに割って入ったのはLだった。彼の落ち着いたトーンに全体の空気が静かに引き締まる。

指をくわえて口元だけで笑んでみせたLは「今日は…」と楽しそうに言葉を紡ぐ。

「…キャンディーの日です。ナナさん、お気遣いありがとうございます」
「ちょっと!!」

これにはナナも思わず声を上げてしまった。
まさかこんな日でも自分から甘いものを搾取する気なのかと、ナナは苦々しい気持ちになる。

「あのね、今日は」

とうとう我慢ならないナナが口を開いた。四人が根負けした彼女を眺めようと顔を向けると、ナナはもったいぶって不敵に笑った。

「国際結婚の日です!」




……。


ナナの繰り出した変化球に場の空気は少なからず変わったようだった。

「私たち、文化は違うけれど、仲良くしましょうね!」

追い討ちをかければ、気のいい彼らは結局、お手上げだ。

「今日はマシュマロデーでもあるそうです。…白いので」と放ったニアが、積み重ねていたマシュマロの一つをつまみ上げ、ナナに受け取るよう目で合図して差し出す。

その横でマットが「円周率のπからパイの日でもあるんだって。無理やりー!」と笑う。そして一言付け加えた。
「アップルパイ、キッチンにあるから。ティータイムに食べよ!」。

「ほんと!?わーい!!」

ナナがパイを探してすかさずキッチンへ向かうと、そこには既に先客が待ち構えていた。

「飾りに使います?」

そう言って先客の大きな手からこぼされたものは、綺麗に透き通った丸い宝石のような、色とりどりのキャンディーだった。

「L!ありがとう!」


**


かくして、ナナの望みは叶った。
ホワイトデーとは、決して空虚な妄想ではなかった。

どっとナナの胸の中で、歓声が起こった。

(万歳、ホワイトデー万歳!)


一連の流れを静かに見届けたメロが、カウンター越しに柔らかくナナに笑いかける。

「策士め、良かったな」

「何よーその言い方。お返し期待してるとか、そういう訳じゃないからねっ!ちょっとふざけてみただけだもん。ホワイトデーって世界的に見たら認知度低いことくらい私だって…」
「俺は」

ナナのぶつぶつしたぼやきをメロが穏やかに遮る。

「郷に入ったら郷に従うタイプ、なんて」

カウンターにリボンのついた小さな箱を置き、頬杖をしたメロは、受け取り主の様子を静かに見守る。


ナナは、ひどく赤面した。


走れ!ホワイトデイ
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