可愛いって10回言って?L編
「ナナ!今日Lがゲームに負けた罰でナナに可愛いって10回言うから、楽しみにしとけよ♪」「ばっ!罰って…」
可愛いって言うのが罰だなんて失礼しちゃう!
可愛いって10回言って?
L編**
L編**
ティーブレイク用のケーキを持って進む昼下がりの廊下。斜めに入る日差しが暖かい。
コンコン
ノックして、でもほとんど私のタイミングで入る、Lの部屋。
それなのに、さっきマットからおかしなことを聞いたものだから変に意識しちゃって、ドアを開けるのに妙な勇気?覚悟?がいる。お、落ち着いて!
咳払いをしてさて開けようとドアノブに手を伸ばすと、一足早くドアが開いた。
「いつもとタイミングが違うので気持ち悪いです」
「L!」
「苺ショートですか、早く食べましょう」
Lは指を咥え機嫌よくニッと口角を上げると、私の後ろに回りテーブルまで背中を押し進める。
ふと後ろから聞こえた声に、まさしく心臓が跳ねた。
「可愛い…」
おお!!!
Lからこんなストレートに褒められるなんて…!
早くもときめいた瞬間、
「…苺ですね。ナナさんの分、予約で。」
漫画だったら頭から髪の毛が数本飛び出してると思う。
何よ何よ、可愛いって苺のこと!?期待した私が馬鹿だった。ちぇー。
「勝手に予約されても私の苺はあげませんよーだ」
「ところでナナさん、今日は一段と可愛らしい」
「…(おお!)」
「服着てますね、似合ってますよ。」
…これはカウントに入れていいの?私としては十二分に嬉しいけれど。いや、ここは厳密に貪欲に、追い求めようか。
「あ…りがとう。まぁ、うん、そう言われるのも嬉しい!」
「勿論ナナさん自身も可愛いと思わないことはないですよ」
…。
こ、これはカウント?!
カウントしてもいいかなと思うけれど、素直に可愛いとは言えないのねL、思わないことはないって。全く。
何だかこっちがハラハラするなぁ。
振り回されている感覚に、手が無意識におでこを抑える。
ひょいっとお決まりのポーズでお決まりの場所に収まったLが、早速ケーキに手をつける。
私は横で紅茶を注ぎ終えると、エプロンを外しLの向かいの椅子に腰掛けた。
正面からの視線が気になって、きょろきょろ自分の視点が定まらない。
「ナナさん?何か様子がおかしいようですが」
「あっいえ!元気です!」
私のややズレた返事を訝しがったLが、スプーンを持っていない方の手をこちらに伸ばし、私の頬に触れる。
室内、ケーキ、おかしな展開。
今日のLは手の甲がいつもより温かい。
ところがその手をひんやり心地よく感じる程に、私の頬の方が熱を持っていた。それはお菓子な彼の、おかしな言動のせい。
「…熱いですね。熱があるのでは」
「ううん!ちょっと興奮してるだけ!」
「はぁ。何に?」
「えっと…特に何にという訳ではないんだけど、ちょ、ちょっと待って。私お水取ってきます!」
無意識なのかわざとなのか分からないLの連続攻撃に、このままでは身を滅ぼしてしまうと慌てて立ち上がる。期待に照れに羞恥に、こんな顔でLの前に座り続けるなんて到底できない。
マットに文句の一つでも言ってやろう!と決めトレーを持った瞬間、グッとLに手首を掴まれた。
「わっL!」
「マットから聞いたようですが」
うううさすが名探偵。
私の挙動不審の理由なんてすぐにバレてしまう。
推理が早い、正確、ご名答。
「私はナナさんのことは愛しい、という目線で見ているので、可愛いと連呼するのはピンと来ません。勿論可愛いとも思っていますが」
「い、いや、何言ってるの突然!Lったら!」
顔から火が出そうとはこのこと。
Lに手首を掴まれ、赤くなっているであろう頬に手が伸ばせない私にできることは、せいぜい下を向くことくらい。
面と向かって言われると恥ずかしすぎる。
「もうからかわないで。照れます!」
「照れるとこんな風に挙動不審になるんですね、その点は素直に可愛いです」
「もーーやめてってばー!」
必死に口走る私をじっと見つめながら、世界一の探偵はまだまだ持っている切り札の一つを切る。
「でもナナさん…喜んだ顔してますよ?」
「!」
何も言い返せない私は薄く笑うLに抑えられた自分の手を引き抜き、両手でしっかり頬を隠すとすぐに背を向けた。そして、後ろで「ナナさん」と呼び止めるLを無視して部屋を飛び出したのだった。
部屋の中で起こったことを反芻しながらずんずん進む足、本当は意識していないとぺたり床に座り込んでしまいそうな程にドキドキしている。
「あっ!」
その足が廊下を抜け、階段を降りたところで自分のミスに気がつき私は声を上げるのを堪えきれなかった。
「トレー忘れた!!」
あぁ。
どんな顔で取りに行こう。
*end*