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夕陽
窓の外から射す光が、きらきらと輝いている。

夕陽の色。黄金色。斜めに真っ直ぐ強く射し込むそれは、メロの髪みたいだった。

日がすっかり伸びて、前だったら1日の終わりだと思っていたような時刻でも、外はまだ明るい。明るすぎて、何もかも見えてしまう。

横に座っているメロが、ふいに会話を止めたと思い、顔を動かさずに覗き見た。
私はこの瞬間、いつも死にかける。

メロが。

手の届かない願い事を言ったりはしないだろうか。
私には到底追いつかないような、壮大な遠い目標を口にしたりはしないだろうか。

あるいは

共感なんてできようもない、悲しみの淵から想いをこぼしたりはしないだろうか。
心臓をぎゅっと掴んで簡単に潰してしまえるほどの、現実を突きつけられたりはしないだろうか。

そんな風に、そんな風に。


メロの目は景色を反射させ、その向こうに遥か彼方が揺れている。
過去か、未来かは分からない彼方。


「眩しい?」

「ん、…ああ。少し」

少し。a little。


メロの穏やかな返答に、非力な私は安心する。

“少し”の表す柔らかさったらない。
絶対でも、全くでもない、少し。

そこに極論は生まれ得ない。

私が心配する隙も、メロが自分の気持ちを認める隙もある。
2人でこの、迷い込みそうな時間を共有する余裕も、少し。

「ブラインド、しめよっか」
「そうだな」

私の提案にメロはすぐさま立ち上がる。もう立つことを決めていたかのようにスムーズな動きに気圧され、一歩出遅れた。

滑らかな動作でブラインドを閉めたメロは、さっきとは違ういたずらな笑顔でこちらへ振り返る。
一瞬見えた憂いは隠したのかどこかへ行ったのか、その表情はいつものメロだった。

ほっとした瞬間、温かい手が伸びてきて頭頂部が熱を含んだ。

「心配には及ばない」

まるで見透かされたような言葉に息をのみ、出てきたのは「ええ…?」としらばっくれたような、わざとらしい疑問形になってしまった。

メロはそんな私の間に合っていない対応も全部見届けて、頭をぽんぽんとなでながら少しだけいつもより分かりやすく笑う。きっと、私を安心させようとして。

「…閉めても眩しいな」

メロはそう言って、私を覗き込むように上半身を曲げる。
綺麗なブロンドがさらさらと肩から滑り落ちる。
ブラインドを透けるわずかな光を背にして、毛先まで一本一本よく見えた。

「おや、私、そんなに輝いちゃってる?」
「ん。目が開けられないくらい」

見つめ合ってくつくつ笑いながら、私たちは夕刻に訪れたアンニュイな時間をさらりとうまく交わしきる。

そうして決して迷子にならずに、明日もいつも通り生きていくのだ。

明後日も、勿論、しあさっても。


夕陽

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