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可愛いあなた
街はシャンシャン鳴るベルと、ちかちか光るそりの電飾と、ほっぺを赤くしたサンタクロースの看板と、それから緑のリースに(白もある!)、そうそうツリーに(こちらも白もある!)、そしてどこを歩いても聴こえてくるクリスマス・ソングに溢れてる!

「もう聞き飽きるくらい耳にしてるのにどうしてこんなに幸せな気持ちになるんだろう…」

そう呟いた声がくぐもってしまう少し厚めに巻いたマフラーもまた、暖かくてうんと幸せ。

「おめでたい頭してるからじゃ」

立ち寄ったデパートのエスカレーター。横の鏡に、私より一段低い位置で呆れた顔をしているメロを発見する。

「何よ!さすがにこれは私だけじゃないね!見て…ほら、あっちのカップルも超幸せそうにしてるよ」
「ばかナナ…じろじろ見るなって」

反対のエスカレーターを下ってくるカップルが楽しげに会話していたのでついうっかり話題にしてしまった。
目が合いそうになってメロが慌てて私を制する。ゴメン、と肩をすくめて合図し顔を上げたら、横の鏡にはさっきより距離を詰めた特別な距離にいるメロと私が映っていた。

自分にできる最大限のオシャレをした私と、いつもと同じだけどちょっとだけ優しいメロと、隙間を開けずに乗るエスカレーターの距離…

「私たちも幸せそうなカップルに見えるかなぁ」
「幸せそう?」
「?」
「幸せ、だろ」
「わーー!そうだったー!!」
「ばかっ!しっ!」

迷惑そうにするメロすら愛おしくて、こうやって二人で一緒にいられる時はついはしゃいでしまう。
沢山笑って、うきうきして、それからちょっとドキドキして、本当はうんとときめいていて、冬が寒いのは、きっとこうやって暖かくなる為だ。

雑貨店の並ぶ階に着くと、クリスマスカラーに彩られた商品が所狭しと並んでいた。

「見て!これ、可愛くない?…わ、すみません…」

その一つを取って早速メロに見せたら、勢い余って全然違うおじさんに話しかけてしまった。
斜め後ろで一部始終を目撃したメロが顔をわずかに歪ませて笑いをこらえている。
目が合ったら近寄ってきてくれた。

「結構な衝撃だな」
「ちが、メロと見間違ったんじゃなくて、確認しないで話しかけちゃっただけだよ?」
「それもそれでまずいだろ」
「もう…言わないでー!」

自分でも顔が熱くなるのが分かる。恥ずかしさなのか、売り場の暖房が効きすぎてるからか、それともメロと話してるからかは分からないくらいだけど。

「見てみて、これ見せたかったの」
「ふぅん」

サンタさん飛ぶ星空と明かりの灯る街並みに雪が降り注ぐようになっているスノードームを見せると、メロは目の高さまで持ち上げてしげしげと眺めた。
感心、くらいの感じ。

「あ、こっちのも可愛い♪」

一歩足を進めた先に、陶器でできた小人達がふちに並んで花を見上げているように配置された植木鉢を発見。

「ここにお花が咲いてたら超可愛いだろうね!!」
「そうかもな」

興味なさそうな声もお構いなしで、目に留まった商品をメロに勧めていく。

フェルト飾りのついたポストカード、サンタさんになれる髭もじゃつきの帽子、クリスマスパッケージになっているだけで倍の値段のキャラメルポップコーン。

ひとしきりお店の中を楽しんで、結局控えめな柄のマスキングテープをレジのお供にしたら、メロが「女の買い物は体力勝負だな」と呟いていた。


レストラン街のある最上階へ向かう為再びエスカレーターに乗った時、ふとさっきの一言が気になって来てしまった。

面倒そうにしないで付き合ってくれるから調子に乗っちゃったけど、大丈夫だったかな。
メロ、つまらなくないかな?と心配になってきた矢先、急にどきりとすることを言われた。

「可愛いと思ったもの全部見せるのな」

まずい。やっぱりうっとうしかったか…。
もっとこう、シルバーアクセサリーが売っているお店とか、男性物の洋品店とかにも立ち寄るべきだったよね。
後悔がじんわり胸に広がる。気遣いのできない女だと思われたらイヤだ!

「ねぇメロ。か、革ジャンとか…見に行こうか?」

「は?」

振り絞って提案してみたというのに、メロに目をまん丸くされてしまい、非常に困る。焦る。

「いやあの、私の見たいものばっかり見ちゃったし…」
「それで」
「…うん」
「革ジャン…」
「…うん」

真剣に頷いていたら、ぷっ、と珍しく音を出してメロが噴き出し、上階が近づき静かになってきた中で今度は私が「しーっ!」とメロを制した。
まだ肩を震わせているメロの手を引いてレストラン街のカーペット敷の床に降り立つ。

「アクセサリーの方が良かった…?」

笑われてしまったので違う提案をしてみると、普通の顔に戻ろうとしていたメロの表情がまた少しほぐれた。

「そういう、悪い意味じゃなく…単純に何でも俺に見せるなと思っただけで」
「本当?」
「本当」
「なんだ〜良かった!」

安心して思わず一息ついてしまった。
気を取り直してメロの方を見たら、まだ柔らかい表情でこちらをじっと見ているから、レストランの向こうに見える夜景に相まって、何だか調子が狂う。

「だからあの、そりゃ、大好きな人には、大好きなものを見せたくなるの。どれもすごく可愛かったし…」
「まぁ、そうだな」
「え、何その反応。あれ…もしかして可愛くなかった?メロは全然そう思ってない!?」

慌てて確認すると、非常に残念なお返事。

「全然思わない訳じゃないが…可愛いかどうかは俺にはよく分からん」
「そうなの!?じゃあ、退屈だった?わーっ…私一人で先走っちゃったよ。ごめん…」

さっきまで夢中で雑貨巡りに興じてしまった自分を反省し両手を合わせる。
これは帰ったら反省会だ。反省はしっかりするから、これに懲りずにまたデートして欲しい!

祈るのも束の間、メロはすぐに穏やかな返事をくれる。

「退屈とは思ってないから謝るなって」

鼓膜を揺らす、落ち着く声。

「本当?」
「ああ」


「中には可愛いと思うものもあった?」
「あったあった」


「ちょ、適当に言ってるでしょ!」
「いや」

やりとりしながら進むレストランへの道のりが、今度は尋問みたいになってくる。

「じゃーメロは何が可愛かった?」

やっぱりメロといると何だか楽しくなってしまって、私はまた調子に乗ってしまう。
歩みを邪魔するように立ちはだかる。こんな姿他の人には見せられないなと思った。

普段だったら絶対しない行動。どうしたって精神年齢が下がってるみたい。
こういうのを、甘えるっていうのかも。

メロは真面目に回答する気になったのか、立ち止まってとおせんぼする私を見る。

目をそらさないメロ。私だって負けない!適当じゃないならちゃんと答えを聞き出すのだ。


人気のないフロアで無言になりじっと互いを見つめ合うこと数秒。


珍しく、珍しく、こんなに長く熱く見つめられて、溶けてしまいそう。
メロの瞳の中までよく見える。メロが私だけを見つめている証が、そこに映し出されてる。

なんか、顔が熱い。



「言うか」

「えっ!?」

ぱちりと我に返ったように瞬きしたメロが、突然顔をそらして沈黙を破った。

そして「ほら行くぞ」と私の手を引き尋問モードを終わらせてしまった。

「わー!ずる!!」

引っ張られながら抗議する。結局いい答えが浮かばなかったんだ!と思いながら、包まれた手の温度に不覚にもドキドキしてしまっているからそれ以上言葉が続かない。


…まぁメロがこの夜を楽しんでくれてるならそれでいいか。

「俺はナナとは違うもんを見てたんだよ」と言い訳するメロの、少し見える横顔が何だか幸せそうだったから、私は大人しく好きな人の手を握り返すことにした。


もしそれが本当なら、一体何を見ていたのかは後でゆっくり聞けばいいよね。


可愛いあなた
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