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きらいのちはれ
梅雨なんてきらい。

どんよりと重い雲の様子を見て、ため息がこぼれた。

こちらの希望などお構いなしの空模様に決められた、本日の予定は「退屈」。

正確には、本日の予定”も”である。

何をしようにも、雨。
小雨、ざーざー降り、にわか雨、色々あるけれど、そんなバリエーションは私にとって何の意味もなさない。

等しく「外出がしづらい」に他ならないのだから。

「もー!今日も雨だよー!」

文句をつけても仕方がないものへ文句を言うのは労力の無駄だと思っているニアへ、それでも相変わらず文句を言ってしまう、愚かな私。

「昨夜の予報の時点で既に同じ文言を聞きました」

「そうだけど改めてどんよりした空を見るとがっかりしちゃうの!」

「それはまぁ…豊かなんですね、」

感情が、と続けたニアはわざとらしく、いつもより少しばかりオーバーに感心した物言いをする。
回りくどさを省けば、要するに「感情的だ」と、そう言いたい訳だ。

「だってニアも、……うーーーんニアは外に出られなくても困らないのか…」

「ええ、困りませんね」

「それは良かったけどさぁ。たまには外に出たいな、と思う時ないの?」

私だって外出大好き!という訳ではないけれど、外に出る機会は何かと発生するもので。
度々湿気を含んだ服に身を包まれるのは不快になるってもんだ。

不満たらたらの私の質問を受けて、ニアは床のパズルへ向けた視線をずらさずに、でも何だか柔らかい調子で答え始める。

「これと言って屋外へ出たいという欲求はほとんどないです。ただ」


途切れた言葉の続きが気になって、つられるようにして振り向く。


「ナナが外出すると退屈だなと思うことはあります。割と、頻繁に」


割と、頻繁に。


割と、頻繁か。そう思ってくれていることは、何だか嬉しい。
胸の中がじわっとあたたかくなる。密やかな歓喜。


「視点を変えれば梅雨も悪くないですよ。現に、今日ナナはどこにも行かないようですから」


らっきー、と日本語調で可愛らしく付け加えるニアに、思わず頬が緩んだ。


視線を向ければ相も変わらず、窓の外はしとしと雨。空を隠すどんより重い雲。

それと引き換えに聞いてしまった嬉しい言葉。


だからと言って梅雨のことは好きになれないけれど。


でも。とか思ってしまう、1日のはじまり。

今日はきっと、いい日になる。


きらいのちはれ
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