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風邪ひき
「…くしゅんっっ



うぇっ!?」


くしゃみをした私はびっくりした。

4人の視線が一気に突き刺さったから。

4人…L、ニア、メロ、マットがハウスのリビングに集まってあれこれ見解を述べあっている横だったのがいけなかった。

「ナナさん、風邪ですか?」

Lが真っ先に口を開く。

「ううん、最近急に肌寒くなったから、身体がびっくりしてるだけよ、大丈夫。」

「…。そうですか。」

4人の視線に圧倒されてそう答えたけれど、実は少しゾクゾクして、寒くなったり、かと思えばカーッと熱く感じたり身体が妙な感じ。

熱でも測ろうかなぁ…と思って体温計を探す。

だけど不運なことに。

体温計の入った救急箱は、4人のいる位置からちょうど良く見える戸棚を開けないと出せない。

みんな、心配は嬉しいけど言い出すとうるさいからなぁ。

ならば、と温かい飲み物を用意することにする。

そろ〜っとリビングを横切ってキッチンに行く。

みんなにはストレートの紅茶。
Lには角砂糖、メロにはチョコレートをつけて。

私の方には温かいジンジャーレモン。

リビングの4人に紅茶を配り、キッチンでのんびりとジンジャーレモンを啜っていると、メロが近づいてくる。

「チョコもっと必要だった?」

私が聞けば、

「あぁ。自分で持ってくから問題ない。それより」

メロは私の手元を見つめている。

「珍しいな、この時期にホットドリンク。」

「え、あ、あぁ風邪予防!さっきくしゃみ出たし!」

「…そうか。ま、無理すんなよ。」

メロは板チョコを追加で2枚持ち出すと、私の頭をポンと叩いてリビングに戻る。

みんな勘がいいのでドキドキするな。


*


ゆっくりとジンジャーレモンを飲み干していくうちに、話し合いが終わったのか解散となり、一人ずつ部屋に戻って行く。

最後にニアだけがリビングに残り、皆が集まる前からやっていたとみられるパズルの続きをやっている。

しばらくしてニアも立ち上がったと思うと、向かいの戸棚をゴソゴソいじりだす。

「探しものー?」

ニアに近づいて問いかける。

そこの戸棚を片付けているのは私なので、探し物なら私がした方が早い。

「はい。私の探し物ではありませんが。」

「?」

「どうぞ。」

こちらに身体を向き直したニアが私にくれたのは、体温計。


「えっ!」

「寒いって顔に書いてありますよ。」

「えぇっ」

私は慌てて頬を押さえる。

「大事にしてください。」

ニアは一言そう残すと、部屋を後にした。


*


自分の部屋に戻った私は、少し横になることにした。

うーーん…だるいな。

すぐにウトウトと眠くなる。

けれど…肌寒い。

夏用の薄い肌掛けしかない為、くるまってもなかなか暖まらない。

だけど動く気力も湧かないよー…。

ぼんやりとした意識の中で葛藤していると、

「入るよー?」

突然ドアが開いた。

見ると、カップとトレーを持ったマット。

「あれっごめん、マットの部屋に持ってったやつ下げ忘れてた?」

「違うよ、白湯。もっと自分のこと考えろって。ナナ冷えてるでしょ?」

「…うん。」

頭もぼんやりとして、ベッドの上で気が緩んで素直に認めてしまう。

「はいお口あーんしてー」

「ぁー…」

だるさに任せてマットに白湯を飲ませてもらう。

「あーあったかい。。」

「ポットにもっと持ってくるから待ってな。」

「大丈夫、ありがと。」

マットは手際良くトレーを持ち直すと、「ナナの大丈夫ほど信用ならないもんはない!寝て待ってて。」と微笑んで部屋を出て行く。


*


マットの優しさに浸ってぼんやりベッドに座っていると、間も無くメロの声。

「ナナ、入るぞ。」

ドアが開くと…


「めろぉ〜〜〜っっ涙」

このタイミング、感動的。

メロが毛布を持って部屋に入ってくる。

「使うだろ?」

声は出さず、コクコクと頷く。

「ほれ。」

バサッと私に毛布を掛けると、メロは部屋の空調を確認して、カーテンを閉めてくれる。

「ごめんなさいーありがとう…。」

毛布にぐるぐるくるまってお礼を言う。

うってかわってぬくぬくと身体を包む毛布の感覚に、体調は悪いのに幸せな気持ちになる。

「何謝ってんだよ…もっと甘えろ馬鹿。」

メロは毛布を持ってきてくれたとは思えない言葉使いでそう言うと、最後に「何かあったら呼べよ。また来る。」と付け加えて部屋を出て行った。


*


段々と身体がホカホカになり、熱が上がっていく自覚も出てくる。

久しぶりのがっつりとした風邪に心細くなっていた時、

「ナナさん、入ります。」

今度は、Lの声。

「あっ」

慌ててドアに近付こうと起き上がると、

「起きなくていいです、そのまま寝ていてください。」

Lはドアを開けると同時に告げる。

「L、私やっぱり風邪みたいなの、うつったら大変だから入らない方が…」

「ナナさんが」

私が慌てて止めようとするのを遮ってLが続ける。

「風邪だと分かった上で残りの3人もあなたに接した訳でしょう?」


うん、


そうだ。


ありがたい。



「…はい。」

妙に素直になって頷く。

「私も同じです。

さてどうでしょう。」

Lはベッド横に置いた椅子にちょこんと掛けると、私の前髪の下に手のひらを滑り込ませる。

「んー…」

恥ずかしいけど、ちょっと嬉しい。

嬉しいけど、うつらないか心配。

困ったように視線を上げると、

「襲えないタイミングで上目遣いしないでください。」

とLが言う。

「ちがっ…。もぅー…。」

抗議したいけれど、Lの手のひらの心地よさで訪れた眠気の方が強く、大した反応が出てこない。

Lの手のひらが離れると、おでこがすぅっと涼しくなる。

身体が弱ると心も弱るな。

すうすうしたおでこに急に心細くなる。

「L…」

Lの手を求めると、骨ばった指がすらりと伸びた、不思議に綺麗な手がすぐに私の手を握ってくれる。

「行かないで…?」

寂しくて、つい。

もっと甘えろ、というメロの言葉が頭の中を廻る。

「そのつもりです。」

Lはしっかりと応え、私は安心して眠りにつく。

さっきまで、うつるかもと気にしていたのに。


*end*
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