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プレゼントが欲しいの
迷子の迷子のお手手ちゃん

あなたのおうちはどこですか


なんだか心地良くて目覚めると、自分の髪と間違えているのかニアが私の髪をゆるゆると指に巻きつけては解いていた。

身動きせずに感覚で確かめる、外の気配と部屋に差し込む光。朝か昼か分からない、ベッドの中。

おうちをきいても所在不明、なまえをきいても記号しか知られてない、通称・Nは珍しいことに私の前で静かに寝息を立てていた。

瞼を閉じた端正な顔。僅かばかり無防備さを浮かべているその表情をごく間近に捉えると、途端に身体が火照る。滑らかな肌に唇を寄せたくなる衝動。

するすると独特の音を立ててこめかみをこする自分の毛の音。時折触れるニアの手のひらのふくらみに頬の熱が伝わりやしないか、ドキドキばくばくしているこの胸の音、バレないだろうか、すごい…急速に恥ずかしい。

そうは言っても、

こんな間近で、こんな密度を保って、向き合っている幸福に身動きが取れないでいる。


くすぐったくなって身体がぴくりと震えてしまいそうなのを必死に堪えながら、ニアったら本当に指先を動かすのが好きなんだなとか、

気がつくまで放っておいてあげようと気配りぶって、本当はいつまでもこうしていて欲しいと溺れるように願ったり。

それでおさまりの悪い替え歌を頭の中で組み立てていたんだけど。

「…あれ…ニア…、もしかして起きてる?」

指先の動きが何だか規則正しくなってきて、つい名を呼んでしまった。


**


声を合図に目の前のまぶたと艶やかな唇はさっと開かれて、さも当たり前であるかのようにニアは言った。

「起きてますよ。寝ているとでも?」
「えっこれ寝ぼけてたんじゃないの?」
「私が?ありえません」

寝ぼけるという現象は誰の身にだって起こり得そうなのに、ニアはいやに自信を持ってはっきりと言い切る。

「じゃー…何なのよう」

心外だと言わんばかりの態度のニアを拗ねたように見上げても、彼から注がれる視線はいつも通り冷静で沈着だ。

髪の一部分に癖がつくよういたずらした?

ご親切に起こしてくれてた?

唇を尖らせ待っていると、想像もしなかった答えが滑り落ちてきてびっくりした。

「愛撫」

その言葉が耳に入ってすぐ、「へぇっ!?」と自分でもみっともないと思う声をあげてしまった。

「深い意味はありません、そのままの意味です」
「そ、そのままって…」
「愛おしんで撫でている、そのままです。…何を想像したんだか」
「な、撫でてるのともちょっと違うじゃないコレ」
「では撫でましょう。どこがいいですか」
「いっ今は…今はいい!」
「素直じゃありませんね」

呆れたような表情を作ったニアにじっと見つめられ、まともに応戦できなくなってしまった。

「な…なんか、ニアいつもと違うよ!もう、恥ずかしいから、いつものニアになって?」

目を合わせられない位置までもっとぐっと近付いて顔を埋めると、少し上機嫌げな声が落ちてきて耳を満たした。

「…少し欲してみただけです」


欲する。欲する?

というとやはりさっきの言葉は愛おしんで撫でる以上の意味を含んでいたのだろうか。
このまま身を任せているべきか…動かぬ展開に緊張か期待かうるさい胸の音を隠して固まることしかできない。

しかし"欲する"の意味を考えて待つことすこし。

近付いた身体が穏やかに温もりを共有している以外にこれといった動きはなく、ニアがこれ以上の何かを求めている訳ではないことが感じ取れた。ほっとしたような、少しもったいないような気持ちを胸に押し込める。

じゃあニアは確かに"愛おしんで撫でていただけ"だったのか。
でもそれって、愛おしんでいるとはっきりと言われるって、逆に貴重な気がする。
そんな風に、触れてもらえる歓び。

こうやって何をすることなく寄り添うこと。特別なことをしないで、なんてことのない瞬間を実感すること。

何もしない、をすること。
それは続いていく日々の中に染み込むように存在する"愛"なのかもしれない。

嬉しくて、愛しくて、頬が自然に緩んでしまうほどの幸福。

やっぱり我慢できなくて、顔をあげて滑らかなあごのラインに唇を押し当てた。呼応するようにニアが耳元へキスを落とす。
今度は目が合っても、ちっとも恥ずかしくないのはなんでなんだろう。


カーテンの外は眩しいくらいの白。もうお昼は過ぎているのかもしれない。

けれどこの時間を簡単には終わらせられなくて。


ぎこちなく触れた手を握り合い、私たちは再び目を瞑った。


プレゼントが欲しいの
自分の言葉ひとつで表情を変える
飽きずに遊べるかけがえない彼女の
驚いた顔とか恥じらう姿とか
満たされる様子まですべて、全部。
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