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運命なんて結果論
どうにもこうにも落ち込んで力が出ない。
そんな日はきっと誰にでもある。私にもある。当然だ。

ショックな出来事があった。思い出したくもない。心の中で言葉にするのもいや。

忘れてしまいたいのに、繰り返し思い出してしまう…抵抗に無力な私の脳内は半日近く同じ思考回路にロックされている。
落ち込みの原因となった出来事とそんな自分を、未だ受け入れられないでいるのだ。

半分床に同化したつもりでいる下半身は、本気で床として生きていく覚悟を決めたのか鈍く重く動かない。

「はぁぁ…。」

今日何度目かのため息をつくと、同じく横でため息をついたニアが呆れたように口を開く。

「新手のボイストレーニングか何かですか。」

「そんな訳ないじゃん…はぁぁ。」

「いつまで落ち込んでるんですか。はあはあうるさい。邪魔です。」

「う…

うるさいって言ったーーー!!
ニアがっ…ニアなのに!敬語じゃない言葉で罵ったーー!うわーーん励ましてようー!」

不機嫌に拍車をかけ嘆く私を、音の出るでかい置物でも見るような目で眺めるニアに、重ねて詰め寄る。

「励ましてよー!ニアが励ましてくれなきゃ生きていけない!うぅ…。」

パズルをやっている横で、床にゴロゴロベタベタしながら落ち込みの原因を繰り返し思い出しては悶絶していると、ラスト1ピースをはめ終わったニアが言った。

「励ませと言われても。他人にできることなど限られています。」

「他人なんて言わないでー!…さみしい。」

「ナナの思想体感全部が分かったらそれはナナそのものです。ですから私はあくまで他人です。」

「…はい。分かってます。」

分かってるけど寂しくて、泣く訳じゃあないけど鼻の奥がツンと潤んでぐすぐす鳴ってしまう。

「他人の私にはせいぜいこうやって話を聞くか胸を貸すくらいのことしかできません。」

ぐすぐすを聞きつけたニアの目がちら、とこちらを確認する。パズルを再度崩しながらさらりと飛び出したその発言は、本人としては現実的に考えて出来ることを挙げたつもりだったんだろう。

「…ぇ、ニア、胸貸してくれるの?」

ところが傷心の彼女は思った以上にその点が気になります。

だって今まで手と手が当たったことがあるくらいで、ろくに触れ合ったことなんてなかったじゃない。

「…それくらいしかできないという話です。」

「それくらいのことはできるってこと?」

譲らずに再度確認する。
いいの?いいのなら私、今すぐニアの胸に飛び込みたい。

床にだれた私が目を輝かせて起き上がるとは思ってなかったのか、無言になったニアはしばしこちらを呆れるように見つめたけれど…

両手をだらっと左右におろして胸の前をあけると「はい、どうぞ。」とやる気のない声を出した。

もっと違う場面だったらドキドキしたり緊張したりしたかもしれない。でも今の私は心から傷ついている。ど傷心なのだ。

「うわーーん!」

落ち込みを吐き出すように声を上げながら、私はずりずりと近づきニアの胸に遠慮なく抱きついた。

「あぁ。落ち着く。幸せ。」

ニアのパジャマってこんなにすべすべで触り心地いいんだ。
規則正しく聞こえる心音。もっと、こう、ドキドキしたりしないのかしら。
ほのかに漂うニアの匂い。例えるなら、おひさまみたいな、爽やかで暖かい不思議な香り。滅多に陽の下に出たりしないのに、全く正反対。変なの…でも、落ち着く。

今まで触れ合わなかったのが嘘のように、当たり前にピタリと合わさる身体。こんなに心地良く収まるなんて、きっと私達は運命の相手同士だ。

「ニア、誰かに胸貸したことある?」

「…あると思います?」

ため息を吐き出すような息遣いの、質問返し。

「分からないから聞いてるの。あるかもしれないじゃない。どこかのレディに。」

「ありません。」

「だと思った。」

くすくす笑うと、揺れる肩にパズルピースの角を押し付けられる。

「いたいいたいー!バカにしてる訳じゃないの!これは私の大切な推理。」

「…。」

呆れたニアはもう返事もくれない。

「推理の為にもう一つ知りたいな。

これから誰かに胸を貸すことある?」

私以外の誰か、と付け加えると、元々静かだった部屋が更に静まり返った。

「さぁ…。未来のことは分かりません。」

「あーあ、やられた。ニアは不確かなことを明言したりしないもんね。」

でもそういうところが好き。
信頼に値すると思うから。

「今後どうなるかは分かりませんが…現段階では他の者に胸を貸す予定はありません。貸すのはナナにだけ、と思っています。」

不確かなことを明言しないよう、言葉に責任を持って。
それでもニアが、これから先限りなく私だけに胸を貸す意思を示してくれる。

「嬉しい。

聞いて?推理できた。
ニアが今まで誰にも胸を貸さずこれからも貸す予定がないなら、この胸は、胸を貸す"くらい"どころか、"私だけに貸してくれる特別な胸"ってことになるよね。えへへ。」

そう一息で言い終え、更にニアに抱きつく。
この胸に抱きつけるのは私だけなのだ。そんな貴重な胸を「胸くらい」と呼んだらバチが当たっちゃう。
これでもかと触れ合っているけれど、もっともっとくっつきたい。

頭の上でニアがまたため息をつく。
ニアだって呼吸は温かいんだななんて当たり前のことを、つむじに伝わったほんの少しの熱で思う。
今までこの吐息の熱を感じた人はいなかったらしい。それにこれからも、きっと私だけ。

名推理(これを推理と呼ぶかは別にして!)に満足な私は余すことなく初めて触れる愛しい彼の感触を味わう。

これから先もずっと、落ち込んだ時側にいてくれる?こうやって、抱き締めてくれるかなぁ。

「自分の願望が顕著に表れた推理ですね。未来のことは分からないと言ったはずですが。」

つむじに顎を刺すように乗せながらニアが呟く。

「分からないけどそうなるって信じたいの。ポジティブって言ってよ!」

「はいはい。」

ニアは適当に流しながら、後頭部をポンポンと撫でてくれる。手も、思っていたより温かいことを知る。

それから一言付け加えてくれた。
耳元で聞こえた熱い台詞に、心も身体も…悩んでた脳内だってとろけちゃう。


「…では、二人でその推理を正解に導きましょう。」


運命なんて結果論


身体いっぱいにじんわり広がるぬくもり。
片手間に抱いているようで、しっかりと支えてくれている腕。
こんな私の側にいてくれる、大好きな大好きなニア。

うん。

明日も頑張れそうだ。
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