あなたがいるなら。
「何がいいのかさっぱり理解できません。」ニアがまた、冷たい本音をこぼしている。
「うるさいですし、人混みも煩わしい、何をもってわざわざ花火を見に行くのか。」
「花火を近くから見るとね、まるで自分のところに落ちてくるんじゃないかって、そんな迫力があるのよ?」
「恐いですね、ますます魅力が分かりません。」
「それを大切な人と、あーだこーだ言いながら見るのは風流よ、風流!」
「…風流。」
「そ。それも季節の楽しみ方でしょう?
「この部屋の中には季節などあってないようなものですから。」
それは確かに。ここは万年快適温度だ。
ドーン…
遠くで打ち上がった花火の、響く音がこちらまで聞こえてきて、私は窓際に駆け寄る。
「綺麗!素敵!」
「…なら近くで見てきてはいかがですか。」
ニアが淡々と言う。
淡々と言っているように見えて、ニアが少しの迷いを持っていることに気がつく。
「一人で行ったりしませんよ。」
私は静かに断言する。
ニアはパズルから顔を上げずに、
「一人花火は悲しい女感が出ますから当然です。」
また余計なことを。まったく。
「私は近くまで行かなくても、ニアとここで一緒に花火を見られたら、この上なく嬉しいもん。今すごーく幸せ。
だから行かない。」
何でもない様子を装って、窓の外を見る。
少し私の方を見つめたニアはしばらく黙り、パズルが完成したところで口を開いた。
「では来年、あなたが言う風流がどんなものか、試しに見に行きましょう。但し、趣きがなかったら…その時は覚悟しておいてください。」
思ったとおり。
ニアは本当は、私の為に花火に行こうか考えてくれてたんだね。気にしなくていいのに。
でも思いがけず嬉しいお誘いをいただけたので、私は来年を楽しみにすることにする。
「ニアこそ、行くって言ったんだから覚悟決めといてよ。」
私は減らず口を叩く。
ニアに感謝の気持ちををいっぱい込めながら。
*end*