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Black or White
「見てー♪子ども達からプロフィール帳もらったの!」

ナナが嬉しそうにひらひらと一枚の紙を揺らして室内に入ってくる。

「何だそれ?」

肘掛けに寄せた身体から頭だけを傾けたメロが確認すると、さらりと金髪が肩から落ちた。

「プロフィール帳。子ども同士が互いのプロフィールを書いて交換しあい、コレクションするコミュニケーションツール…」

ニアが角砂糖を積み上げながら答える。メロは不機嫌に返した。

「お前に聞いてねえよ」


こちらはハウス内ダイニング。

メロとニアはナナがこの時間にこの場所にいることが多いとタイミングを見計らって現れ、互いに鉢合わせたのだった。

一旦キッチンの方に回ったナナは、空気の悪いダイニングテーブルに近寄ると、メロとニアにチョコレートを数粒ずつ配ってからいそいそと腰掛けた。

二人はカシャカシャ鳴る包み紙を開けながらナナを見つめる。

「名前はー、ナナでしょ」

「好きな食べ物は〜果物ってことでいいかなあ」

「真面目に答えろよ」

「んー。メロは果物で何が一番好き?」

「チョコレート」

「じゃチョコレートでいいや!」

メロの意見は採用され、ナナが好きな食べ物の欄に迷いなくチョコレートと記入する。

「チョコレートは果物ではありません」

「でも私チョコレート好きだし!むしろ果物よりチョコレートの方が好きだし!オッケーオッケー♪次は…」

夢中でプロフィール帳の先を読むナナの横で、メロが得意げな視線をニアに送る。
ニアは左のこめかみに手を伸ばすと髪を捻った。

「好きなこと。好きな"こと"って…幅広いな…!趣味の話かなぁ」

「こと、だから行動じゃないですか」

「そっか。ニアは何するのが好き?」

「見るのは得意です」

「私も人間観察好き!じゃあ人を見ることでいいや!」

「安易だな」

「単純明快な方が子どもにも分かりやすいでしょっ!」

あっさりとニアの意見も採用され、メロは面白くない様子。

「次は好きな言葉かー。うーーーん。何がいいかなぁ」

「チョコレート」

「それさっき書いた」

「念の為」

「そんな用心な感じやだ!

あ、計画を立ててうまくいくと嬉しいから、計画通りとか?」

「それはちょっと…」
「センスが悪いですね」

「うーーん。じゃ、これは保留!

次は、好きな色ね。好きな色は、」

「黒」

「白」

「ちょっと。私が決めるのでメロもニアも黙っていてください。赤がいいかな〜」

「金もいいな。輝くイメージでそそられるだろ?」

メロの案にナナは宙を見つめる。

「なるほどー、赤とか青より金って意表をつく答えかも!」

「それなら銀の方がより意表をつけます。アクセサリーもシルバーが綺麗ですし」

ニアも滑り込むように提案する。

「確かに!金より銀の方が一捻りある感じ!」

「銀は何となく二番手っぽい印象が強いだろ」

「しかし金を安易に選ぶ方が実際には二番手らし…」

「ちょっと!!!二人ともやめてよ!」

段々と口撃がヒートアップする二人に、ナナが注意する。
バツの悪いメロとニアが黙り込むとほぼ同時に、マットが部屋に入ってきた。

「私、やっぱり普通に赤にする」

「ん?ナナ好きな色赤?いえーい!」

それまでの流れを知らないマットが大げさに喜ぶポーズを取り、テーブルに近付いた。

「あら、マットの髪色は本当のところアッシュカラーだよね?」

「さてはお主、カラー版確認済みですな!?」

「ちょっとだけ…てへへ」

訳のわからない会話を交わすと、マットは冷蔵庫からボトルを取り出し自室へ戻って行った。

「最後!は…好きな人かぁ」

「ほう」
「興味ありますね」

「これは…」

ドキドキドキドキ…

二人ともどちらが、もしくは誰がそこに書かれるのか緊張しながら待つ。


「ナイショ!」

「内緒だぁ?」
「書かないんですか」

ニアとメロは期待はずれの表情を互いに隠して、ツッコミを入れる。
ナナなら素直に書くと思ったのに。しかしこの記入の適当さ、たとえ名が書かれても信憑性に欠けると二人は思い直す。

「あとは仕上げて…よし!これで出来上がりっ!

紅茶でも飲もう!二人もいる?淹れてくるね〜」

書き終えたナナはプロフィール帳をテーブルに残したまま、キッチンへと向かった。

ニアとメロはさりげなく置き去りにされたプロフィール帳を盗み見る。

さっき保留した好きな言葉の欄を覗くと、そこにあったのは「一人ではできないことも、二人ならできる!」の言葉。

ニアとメロは顔こそ合わせないが、互いに同じ場所を読んだであろうことに気がつく。

そして言葉を交わすのだった。

「好きな人ナイショということは、」

「存在はしているってことだな」



「はい!お待たせ〜!休憩にしましょっ」

ティーセットをカチャカチャ鳴らしながらご機嫌なナナが戻ってくる。

保留された勝負の行方を思いながら、二人はカップに手を伸ばした。


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