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苺注意報
「例えそのせいで出かけるのが遅くなろうと非効率だろうとそれは愛する人に魅力的に思われたいという可愛らしい願望がそうさせるのだと考え待ちます。」

「そもそも指先に色がついていようがいまいが行動に大きな影響があるとは思えません大体昨夜のうちに終わらせておくことはできなかったのかと思わなくもないですが黙っておきます。」

「ごめんなさいね!!」

私は勢いよく謝る。

もう出かける時間になるというのに、私の指先のマニキュアが乾かない。

Lは表情こそいつものままだけど、つらつらと不満を並べ、言葉の意味すら超越している。

それはつまり、全然黙れてないじゃん!てこと。

でも私が悪い。ごめんなさいね。

Lが「明日は一日一緒に過ごせそうです。」なんて言うから、嬉しくて嬉しくて、昨日の私は舞い上がって目一杯のおめかしを考えた。

「デートコーデ!」のPOPと共に打ち出され、マネキンが着ていた女の子らしいワンピースを、(あの恋人と、いつデートするのよ!!)と自問自答してお会計中既に後悔しつつ買ったあの時の私よおめでとう。

あのワンピースを出してくるなら、またとないデートの機会なら、これはもう普通のカップルのように過ごしたい。

目一杯お洒落して、褒めてもらって、うふふあははと街を練り歩きたい…。

「果てしなく大きな期待と共に勝手に自滅されても困…」
「もーーっ言わないでー!」

期待に胸を膨らませすぎた私は、一事が万事こだわりすぎて、出発予定時刻までに準備を終えることができず、こうして多忙な恋人を待たせてしまうに至る。

「本当にごめんねってば。張り切りすぎちゃった…。」

「まぁ。」

多忙な多忙な恋人は半分据わった目でこちらを見つめながら、

「そうさせてるのは私ですから。」

と一言呟く。

「お腹が減りました。」

時計はお昼の12時。
あっという間にランチタイム。

今の私じゃ出かけるどころか、スイーツを用意してあげることもできない。
情けなくて落ち込んでくる。

「苺がいいです。」

いいです、と言われましても。

「ごめんねL、苺、冷蔵庫に入ってるから自分で取ってくれる?」

「嫌です。それより、」

それより?

「こちらの苺をいただくことにします。」

??

Lは猫背で立ち上がると、私に近づき顔を落とす。

せっかく仕上がってきた指先が大切で身動きできないでいると、Lにあっというまに唇を奪われた。

「ちょ…」

いつもとは違うタイミングでのキスに、どういう表情を浮かべていいものか。照れとにやけと恥ずかしさに妙な顔になる。もう。

至近距離で視界に入るLの目が微かに細まりこれはこの人の笑顔だなと思う。

「近い。」
「近くにいますから。」

「離れて。」
「本音ですか?」

本音ですか?だって。ずるい。

睨むようにLに向き直ると、少し目線を落としながら再び唇が近づいてくる。

スローモーション。

わずかに顎を引いて抵抗の素振りを見せつつも、結局Lを受け止めてしまう私。

指先のことなんて忘れて、熱い衝動にこのまま身を任せたい。

意地悪なLはもう一度離れ、私の顔を確認する。

目線を上げられない。今の私の顔には迷いの色香が漂っているだろう。

また口唇が近づいてくる。今度はほんの少しの隙間を携えて。

押し開けるようにして侵入してきた甘い舌に捕まれば、それから先はもう、抗えない波に従って堕ちていくのみ。

応じるようにして互いを絡め合いながら(このTシャツは使えなくなるな…)と感じる。
私の色にところどころ染まるLの白いTシャツ。えろてぃっく。


**

かくしてデートに行き慣れない私たちは出発予定時刻から大幅に遅れてやっと出発できる運びになったのだった。

「女性の支度がこんなに遅いとは驚きでした。」

「出発する直前に襲ってくる方が驚きです。」

「苺を食べただけです。」

「ばか!」



*end*

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